研究課題/領域番号 |
15K07220
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小澤 理香 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (90597725)
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研究分担者 |
有村 源一郎 東京理科大学, 基礎工学部生物工学科, 准教授 (60505329)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プライミング / 揮発性物質 / シロイヌナズナ / トマト / 虫害抵抗性 / ハスモンヨトウ |
研究実績の概要 |
植食者による食害を受けていない植物は、食害を受けている周囲の植物から放出される匂いを受容することにより、前もって防衛活性を高めることができる。これを「匂い受容による防衛応答のプライミング」というが、このプライミングの持続性および次世代への伝達の有無を実証した研究はこれまでにない。本研究では、様々な成長段階の植物に被害植物由来の匂いを暴露し、その植物が(1)どの成長段階からどの程度の期間防衛活性を高めるか、(2)さらに次世代に防衛プライミング応答を伝えることができるかの2点に絞って検証した。 当該年度は、当代の反応について、みどりの香りであるヘキセニルアセテート(Hex-Ac)に曝されたシロイヌナズナとトマトについて、暴露の1日後(短期)および20日後(長期)に、ハスモンヨトウによる虫害抵抗性を評価したが、虫害抵抗性の上昇は認められなかった。そこで、前年度シロイヌナズナ当代において、虫害抵抗性の上昇が認められたオシメンを用いて、次世代の反応について調査した。その結果、オシメンを暴露した次世代においては、虫害抵抗性の上昇は認められなかった。 そこで、オシメン暴露シロイヌナズナに注目して、暴露後当代にハスモンヨトウに食害された際の防御遺伝子(AOS、VSP2、PDF1.2)の発現を確認したが、暴露区とコントロール区で発現量に差は認められなかった。 さらに、ヒストン修飾酵素変異体(ashh3、ashh4、hda6、ham1)を用いて、オシメン短期暴露による虫害抵抗性を確認したところ、野生株と異なり、変異体ではオシメンに曝された植物と曝されていない植物における虫害抵抗性の差が無くなった。したがって、これらのヒストン修飾酵素が、オシメンに曝された植物の抵抗性の獲得に寄与していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オシメンとHex‐Acに曝されたシロイヌナズナとトマトの虫害抵抗性評価は計画通りに進行している。さらに、先行して、ヒストン修飾変異体を用いた実験も実施している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、オシメン暴露シロイヌナズナの系に注目し、ヒストン修飾酵素変異体を用いた解析を進めていく。現在確認している短期のみでなく、長期の反応についても調査する。その結果を踏まえ、クロマチン免疫沈降(ChIP)により、ヒストンのアセチル化によるエピジェネティクス制御機構を明らかにする予定である。また、虫害抵抗性が認められた際に、選択した防御遺伝子の発現量はコントロールと大きく違わなかったことから、さらに、網羅的な遺伝子発現を解析することで、匂い受容の記憶と連動する遺伝子制御について明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
虫害抵抗性試験で暴露区とコントロール区とに差が表れたのは、オシメンに曝された当代のシロイヌナズナのみであったので、この区に絞って、解析を進めた結果、繰越予算が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
予備的調査で、ヒストン修飾変異体では、オシメン暴露の虫害抵抗性効果が失われることが示されたことから、計画にはなかったが、新たにChIP Assayを29年度に実施する。また、野生型シロイヌナズナでオシメン暴露の際に、防御遺伝子の発現が認められなかったことから、さらに、網羅的に発現遺伝子の解析を行う。当該予算はこれらの消耗品費に充てる予定である。
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