研究課題
五島福江島南方海域に来遊するマッコウクジラの行動調査を行うために、長崎大学水産学部の附属練習船および上五島町のダイビングショップ所有の船舶を利用して、2015年6月に1回、7月に2回、8月に1回の計4回の現地調査を行った。このうち8月末を除く調査で、マッコウクジラを発見した。初夏に来遊したマッコウクジラは8月末頃にはこの海域を離れるものと思われる。3回の調査で、尾びれの写真から11頭のマッコウクジラを個体識別し、このうち2頭について、赤外線距離計による距離と写真上の大きさから、個体の推定体長を得た。これまでに得られた5頭の推定体長は8から14mであり、根室海峡で記録したマッコウクジラの推定平均体長よりもかなり小さかった。これまでに子連れを含む群れが確認されていないことと合わせて、この海域には主に性成熟前のワカオスが来遊すると考えられる。2015年7月には当海域では同じ5頭が繰り返し確認された。この5頭は水面で密な集団(クラスター)を形成するのが観察されたほか、やや離れている場合でも潜水浮上が同調しているのが観察された。また、この集団では浮上前に頻繁にスロークリックを発していた。このような行動の同調やスロークリックスの発声は根室海峡では稀であり、ワカオス集団特有の行動と考えられる。7月の調査では、1頭に衛星タグを装着した。得られたデータから、この個体は昼夜で異なる深度へ潜水していること、夜半から早朝にかなりの時間を水面で過ごしていることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
調査海域である五島南方海域において、これまでに計13頭の個体を識別し、5頭について推定体長のデータを得ている。また。これらの個体の水面での行動観察データを得たほか、1頭に衛星タグを装着し、移動データを得た。これらより、この海域におけるマッコウクジラの滞在、移動と行動パターンの基礎的な情報を得ることができた。このことから概ね順調に進展していると判断する。
本年度は、上五島のダイビングショップ所有の船舶を傭船し、五島南方海域においてマッコウクジラに吸盤装着型データロガータグの装着を行い、詳細な水中行動データを得る予定である。そのほか、昨年度に引き続き個体識別写真の撮影、体長推定、水面行動データ、鳴音データの取得に努める。これらの結果から、社会行動時間、クラスター形成頻度、スロークリックス、コーダの発声頻度を算出し、根室海峡のマッコウクジラとの比較を行っていく。
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