2017年4から6月に長崎大学水産学部附属練習船と新上五島町のダイビングショップ所有の船舶を利用して、五島南方海域のマッコウクジラの調査を行った。これらの調査で11頭のオスのマッコウクジラが個体識別された。このうち今年度新たに識別されたのは5頭で、6頭は再発見された個体であった。これまでに得られた識別データを利用した並び替え検定の結果、五島沖のマッコウクジラの同伴関係はランダムではないことが示された。2015年以来、同じ5頭が繰り返し同じ日に識別され、この5頭は長期的な社会的関係にあると考えられた。これらの個体は海面付近で頻繁に密なクラスターを形成し、社会行動や休息行動をともに行っている場面も観察された。このような多くの個体の長期的関係やクラスター形成は根室海峡ではほとんど見られない。 2017年5月の調査で3頭に吸盤装着型データロガータグを装着し、18.7、2.5、2時間のデータを得た。18.7時間の行動データ中、社会行動が含まれる水面滞在時間は3時間46分であった。これまでに得られた3頭のデータで、装着時間に占める水面滞在時間の割合は24.7%で、根室海峡で得られた同様の値(11%)の倍以上であった。 この3年間の研究の結果、五島沖のオスのマッコウクジラは、根室海峡のものより推定体長が小さく、社会性が高く、より長い時間を水面での社会行動に費やしていることが明らかとなった。本研究は、血縁や繁殖に基づかない群れを作るオスのマッコウクジラが、親和的社会行動により社会性を維持していることを確認することを主目的として行った。その結果、より社会性の高い若いオスのマッコウクジラは、より頻繁にかつ長時間社会行動を行なっていることが明らかとなった。このことは、社会的な動物にとって、短期的な関係修復だけでなく、長期的な社会的関係の維持にも親和的社会行動が重要であることを示している。
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