研究課題/領域番号 |
15K07228
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
瀧本 岳 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (90453852)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生態的種分化 / 被子植物 / 送粉者 / 定花性 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、送粉者と生育環境からの複合自然選択によって被子植物の生態的種分化が促進されるという新しいアイデアを提案するとともに、その理論的妥当性を数理モデルを用いて検討することを目的としている。本年度は、新規生息地に進出した植物個体群が、新しい花色を獲得することによって、元の生息地にいる祖先個体群との間に繁殖隔離が生じて新種を形成するという種分化シナリオを検討した。2遺伝子座2対立遺伝子の集団遺伝学モデルを構築することで、この種分化シナリオの検討を行った。二つのうち一方の遺伝子座には、各生息地における生存率や種子生産力といった適応度を決定する対立遺伝子がのっているものとした。もう一方の遺伝子座には、花色を決める対立遺伝子がのるものとした。また送粉者は定花性をもつとした。種分化の前段階として、どちらかの生息地でより高い適応度を表現する対立遺伝子の多型が植物個体群内にあり、また花色は単型であるとした。この前段階の状態の個体群に、突然変異によって新しい花色を表現する対立遺伝子が生じると考えた。新花色を表現する対立遺伝子が導入されたあと、新規生息地を利用する個体群に新しい花色がひろまると、送粉者の定花性をつうじて異なる生息地を利用する個体群の間に繁殖隔離が成立する。モデル解析の結果、新しい花色が新規生息地の個体群にひろまって繁殖隔離が成立する要件として、各生息地で高い適応度をしめす個体が送粉者への報酬(花蜜など)にもより多く投資することで送粉者の定花性を強めることが必要であることが判明した。この結果は、生育環境への適応が同時に送粉者誘引を強めることによって生態的種分化が促進することを意味しており、本研究課題のアイデアの理論的妥当性を示す重要なものである。 この研究と平行し、準備研究の一環として行っていた無報酬花の多型維持機構および送粉共生系の安定化機構に関する論文を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は個体ベースモデルを構築する予定であったが、より単純な集団遺伝学モデルで基本アイデアを検討することになった。計画とは異なるモデルとなったが、当初予期していたものに該当する結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、ここまで得られた結果を投稿論文にまとめる予定である。またモデルを拡張し、送粉者シフトを考慮した種分化シナリオを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初個体ベースシミュレーションを行うためのワークステーションを購入する予定であったが、本年度には個体ベースシミュレーションモデルではなく集団遺伝学モデルを構築することになった。ワークステーションの購入を個体ベースシミュレーションを構築する次年度以降にずらしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
個体ベースシミュレーションを行うためのワークステーションを購入する。
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