研究課題
平成27・28年度に岡山県の湖沼および河川で淡水性カメの捕獲調査を行い、大陸からの外来種と考えられるクサガメ1217個体、北米から移入されたミシシッピアカミミガメ498個体、在来種であるニホンイシガメ24個体、他にイシガメとクサガメの雑種と思われる4個体を捕獲した。岡山県におけるアカミミガメの割合は隣接する兵庫県などに比べると高くはないが、倉敷市、岡山市笹瀬川流域。瀬戸内市などにアカミミガメの高密度生息域が確認され、海側から徐々に分布が広がっている様が伺われた。この原因として、海に流されたものが瀬戸内海を介して広がったのではと考え、瀬戸内海に面する兵庫、岡山、香川および関係のない佐賀、静岡のmtDNAを調べたところ、すべての地域で多様なハプロタイプが見られこの仮説は証明できなかった。一方、79ヶ所の池の水から、浮遊するイシガメとアカミミガメの環境DNAを調べた。イシガメの環境DNAは1ヶ所で確認されたがそこでイシガメは捕獲されなかった。また、アカミミガメの環境DNAは5ヶ所で確認されたが、内4ヶ所で個体が捕獲された。実際にイシガメの個体が捕獲されたのは9ヶ所あったがそれらではイシガメの環境DNAは検出されなかった。さらに、アカミミガメの個体が確認されたのは25ヶ所であったが、そこで実際にアカミミガメの環境DNAが検出されたのは4ヶ所であった。このように現在の手法では環境DNAから生息するカメ種を推定するには無理があることが確認された。また、遺跡の骨格残骸の分析は新たな展開をもたらした。イシガメの骨格残骸を権現山岩陰遺跡(高梁市、縄文遺跡)と草戸千軒遺跡(福山市、室町遺跡)等で確認した一方で、クサガメも草戸千軒遺跡、恩地遺跡(東大阪市、弥生時代から古墳時代中期)、帝釈観音堂洞窟遺跡(広島県神石町、縄文時代)で発見し、本種の導入年代に関し改めて検証する必要性を確認した。
2: おおむね順調に進展している
捕獲による分布調査、環境DNAによる分布調査の技術開発、骨格遺骸による過去の生息種推定とともに順調に推移している。ニホンイシガメとクサガメの遺伝子浸透に関しては雑種の確認された池がいくつか確認されており、そこの組織試料も採取することができた。ただ、岡山におけるアカミミガメの起源についての研究を行ったため、分析は遅れているが、来年度に実施できる予定である。
岡山平野の陸水においてカメ相がニホンイシガメ(以降、イシガメ)からクサガメ、さらにミシシッピアカミミガメ(以降、アカミミガメ)と遷移していく様を科学的に論証するのが本プロジェクトの目的である。これまでの研究で、分布情報からはそれを支持する結果が得られている。29年度は海岸部を中心に分布調査を行い、アカミミガメが海から侵入し、分布を拡大していることを明らかにする予定である。また、残存的に残されたイシガメの生息地をまとめ、その環境特性を分析する予定である。環境DNAを用いた研究においては、まだ作成できていないクサガメのプライマーを作成するとともに、現段階では問題のある検出精度をあげて、池に浮遊するカメのDNAの由来を検証し、実際に捕獲個体と比較する予定である。また、イシガメとクサガメの組織のmtDNAを分析し、遺伝子浸透や種の置換の様相を明らかにする予定である。一方、遺跡の骨格残骸からの分析結果は、従来の定説とは反し、縄文時代の中国地方にもイシガメ以外にクサガメが生息していたことを示しており、それらをより深く検証していく予定である。さらに、アカミミガメの優占は貴重とされる岡山平野の淡水魚相にとっての脅威であることから、今回の研究成果を広く一般市民に啓発するシンポジウムを開催する予定である。
28年度に実施予定であった淡水ガメのDNA解析が、予定通りの検体数をこなすことができなかった。そのためそれに係る薬品代が次年度に使用することとなった。
最終年度である29年度は残されているカメ、特にクサガメとニホンイシガメの試料を遺伝子分析にかける予定である。
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Molecular Ecology Resources
巻: 17 ページ: 324-333
Limnology
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亀楽
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