霊長類研究所で発見された2頭の特徴的なサルに関して早老症を疑い、解析を行った。
DNA修復能力が低下し、繊維芽細胞の増殖能力が低下しており、幼児期における白内障や大脳皮質・海馬の萎縮、糖代謝異常などの早老症的特徴が見られたニホンザルN416に関しては3歳で死亡したときに採取した組織の元素分析を行い、さまざまな年齢の正常個体との比較を行った。主要臓器において、タンパク質含量の指標となるイオウや核酸含量の指標になるリンは他個体と比べて際立った特徴を示さなかったが、亜鉛が一部の臓器で著しく低い値を示した。亜鉛はDNA 修復関連酵素や抗酸化酵素などに関わっているため、その代謝の異常が早老症的症状の発現の一因かと思われたが、萎縮がはなはだしかった大脳皮質や海馬では亜鉛は減少しておらず、亜鉛代謝の異常と早老症様症状との関係は解明できなかった。
ニホンザルMff2389に関しては、低い鼻、舌の突き出し、低成長などから当初ダウン症を疑った。しかし、尿の生化学分析やエックス線撮影、骨塩量測定などの解析の結果から、難病指定されているリソソーム病に含まれるムコ多糖症を発症している可能性が高まった。Mff2389の母親はこれまでに7頭の子を産んでいるが、Mff2389以外に2頭が、類似した症状を示していた。検証のためのDNA解析は、ムコ多糖症に様々な型があり、それぞれ原因遺伝子が異なるため難航したが、並行して行ったエクソン解析から、発症していない両親はヘテロに、発症しているMff2389はホモに持つIDUAのミスセンス突然変異を発見した。この変異を検出するPCR、シークエンス解析を行ったところ、発症した3頭は全て当該ミスセンス突然変異ホモ個体であった。非血縁個体に関しても約半数がヘテロ個体であり、この放飼場個体群が世界初のムコ多糖症霊長類モデル生産に利用できる可能性が示された。
|