研究課題/領域番号 |
15K07240
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
佐藤 丈寛 金沢大学, 医学系, 助教 (10558026)
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研究分担者 |
Hudson Mark 西九州大学, 公私立大学の部局等, 教授 (20284052)
覚張 隆史 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 特任助教 (70749530)
深瀬 均 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00582115) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 古代DNA分析 |
研究実績の概要 |
主に関西から中国地方で出土した縄文時代から弥生時代にかけての人骨から骨粉を採取し、コラーゲンに含まれるアスパラギン酸のラセミ化率を測定した。ラセミ化の程度からほとんどの試料はDNA分析の成功の見込みが低いと推定されたが、和歌山県地ノ島遺跡出土の弥生時代人骨1体がDNA分析が成功するだけのDNA保存状態を維持していることが期待できる結果を示した。今後はこの試料のDNA分析を進め、その保存状態がゲノム解析に耐えうるものかどうか引き続き検証する。その他の資料では、岡山県里木貝塚出土の縄文時代人骨、同船穂貝塚出土の縄文時代人骨、和歌山県鳥の巣遺跡出土の弥生時代人骨が、基準には満たないものの比較的低いラセミ化率を示したため、これらの試料もDNA分析の対象候補としする。 沖縄県武芸洞遺跡出土の貝塚時代人骨およびサキタリ洞遺跡出土のグスク時代人骨に加え、出土した層位から旧石器時代のものと推測される人骨のサンプリングを行った。これらの試料については今後ラセミ化率の測定を進める予定である。 沖縄県宮古島の長墓遺跡から出土した遊離歯のサンプリングを行った。歯については、その他の骨組織と異なり、アスパラギン酸のラセミ化率とDNAの保存状態に明確な相関関係が無いことが報告されているため、ラセミ化率の測定は行わず、全ての試料についてDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAのHVR1領域のPCRが成功するか否かで試料をスクリーニングする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は関西から中国地方にかけて分布する遺跡から出土した約30個体分の古人骨のラセミ化率を測定した。全体的に保存状態が悪い試料がほとんであったが、和歌山県地ノ島遺跡出土の弥生時代人骨1個体が低いラセミ化率を示し、DNAの保存状態が良好であることが示唆された。今後は、この試料について本格的にDNA分析を進める予定である。 微量の骨粉試料からアスパラギン酸のラセミ化率を測定することで、DNA分析に適した資料を選出することができた。DNA分析成功の見込みのない試料を同定することで、貴重な古人骨試料の無駄な破壊を防ぐことができたと言える。 また、琉球列島の各地から出土した様々な時代の古人骨試料をサンプリングすることができた。これらの中にDNAの保存状態が良い試料があれば、琉球列島のヒト集団史を明らかにする上で極めて重要な知見を得ることが期待できる。人骨の年代は、旧石器時代、貝塚時代、グスク時代のものであり、いずれの時代も琉球列島のヒトの集団史を考える上では非常に重要な時代である。亜熱帯域出土の古人骨であるため、すべての試料でDNAの保存状態が良いという可能性は高くは無いが、いずれかの試料が保存状態の良いDNAを保持していれば、自然人類学的に非常に重要な知見を得ることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
ラセミ化率の測定により、DNAの保存状態が良いことが示唆された試料については、まず、mtDNA HVR1領域をPCR増幅することが可能かを確認する。PCR増幅も可能であることが分かれば、次世代シーケンシングライブラリーを作製し、ショットガンシーケンスを行う。得られたデータをヒトゲノム参照配列にマッピングし、内在性DNAの含有率を推定する。マップ率が10%以上を記録した試料については、全ゲノムシーケンスを試みる価値があるものとみなし、追加のDNA抽出を行うためのサンプリングをする。 琉球列島出土の古人骨試料に対しては、引き続きラセミ化率の測定を行った上で、PCR増幅による2次スクリーニング後、NGSライブラリーの作製を行う。 試料全体を通してヒトゲノム参照配列へのマップ率が高い試料から優先的に、本格的な次世代シーケンシングを行う予定である。マップ率の低い試料しか得られなかった場合には、キャプチャー技術を利用した古人骨DNAの濃縮を行うことも検討する。
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