研究課題/領域番号 |
15K07248
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
高雄 元晴 東海大学, 情報理工学部, 教授 (90408013)
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研究分担者 |
森田 健 福岡女子大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (20326474)
古賀 靖子 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (60225399)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 網膜 / 概日リズム / 網膜電図 / 瞳孔反射 / 非イメージ形成視覚 / イメージ形成視覚 / 内因性光感受性網膜神経節細胞 / 視細胞 |
研究実績の概要 |
概日リズムの光同調に関わる内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)の光応答特性の解明のために、申請者らはマウスの剥離網膜標本から網膜電図の記録を試みた。なおこの際、視細胞からipRGCへのシナプス入力を薬理学的に遮断した。その結果、UV-A光(360nm)に対する光反応は見られないもののipRGCが最大分光感度を有する波長である480nm(青色光)に対しては持続的な光反応が見られた。これは、ここで記録された網膜電図がipRGCの光反応を反映しているものと考えられた。 また視交叉上核で見られるUV-Aと青色光の混色光による光反応の増強効果が外側膝状体背側核では見られないことを組織化学的に明らかにした。これは、非イメージ系形成視覚とイメージ系形成視覚では網膜内神経回路網が異なっていることを示唆していた。 一方、ヒトにおいては、視細胞とipRGCの分光感度を考慮して、青色、緑色、黄色の単色光刺激を用いて瞳孔反射実験を行った。瞳孔反射の分光感度に劣加法性が見られたが、反対色反応はなかった。ただし、さらに瞳孔反射データの蓄積が必要である。既往研究で、瞳孔反射の分光感度は、光刺激時間の長さによって変化することが報告されている。瞳孔反射の分光特性を的確に把握するには、数分以上の定常的な光環境における観察が必要であると考える。 さらに、ヒトのipRGC特性、特にその対光感度の日内変動を、網膜電図を用いて把握する試みを実施した。実験光には、ipRGCへの光刺激を錐体や桿体から独立して与える条件等色光を用いた。被験者を朝から翌日昼まで一定光環境下に滞在させ、14時から5~7時間毎にipRGCへの光刺激変化に対応する網膜電図を皮膚電極にて測定した。その結果、ipRGCの対光感度が朝と夜に高くなる傾向が認められた。この事は過去に報告されている概日リズムの対光位相反応曲線との関係が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトにおける実験で予測されていた内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)の光反応を反映する成分がマウスの網膜でも記録されるとともに、明順応下において錐体細胞が関与していないことを詳細な光刺激条件の下で明らかにすることができた。また、この成分がサーカディアンリズムを有しているということをヒトにおいて明らかにできた。これらヒトとマウスにおける相補的な研究は当初予定したとおりの成果であり、研究は概ね順調に進展しているいえる。 マウスにおいて非イメージ系形成視覚で見られる混色光の増強効果がイメージ系形成視覚では見られないことが明らかになった。一方、ヒトの瞳孔反射において分光感度に劣加法性が認められたことは、ヒトとマウスにおける錐体視細胞の分光波長特性の違いのみならず、それぞれの網膜神経回路網の差異を反映している可能性がある。ヒトとマウスの種間比較を行うことにより得た興味深い知見であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
剥離マウス網膜においてドパミン作動性アマクリン細胞の内因性光感受性網膜神経節細胞の網膜神経回路における関与に関して、選択的D1受容体のアンタゴニストであるSCH-23390などの各種ドパミン受容体拮抗薬等を作用させた状態で、光反応の増大効果がどのように変化するのか網膜電図およびホールセルパッチクランプ法により記録を行うことにより解析する。ホールセルパッチクランプ法は順応状態に応じて変化する内因性光感受性網膜神経節細胞の膜電位に関する詳細な解析を行うのに必要な手法である。ヒトの網膜電図に関しては、概日リズム依存性に関する詳細な実験に長期間を要するために、平成28年度以降も研究を継続する。 一方、ヒトの中枢神経系おける内因性光感受性網膜神経節細胞の光反応の増大効果の関与に関して、同細胞が直接関わる脳機能である光瞳孔反応を指標に検討する。ヒトの網膜はマウスと異なり、3種類ある錐体視細胞の分光感度曲線は内因性光感受性網膜神経節細胞のそれとオーバーラップしている。そのため同細胞の混色光に対する分光波長感度特性について、錐体視細胞からの経シナプス入力を検討するために明順応下で2波長混色光および単色光の比較から明らかにする。実験は、電子瞳孔径計測装置を用いて光瞳孔反応を画像処理によりリアルタイムで計測する。なお、光刺激は、キセノン光源と2種類の干渉フィルターを組み合わせた光路を電磁シャッターで制御できるようにしたものを使用する。
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