研究課題
植物は、乾燥ストレスを受けると地上部の生育が抑制される。このような生育抑制の分子機構を調べるためには、植物が枯死してしまうような強い乾燥ストレスではなく、ストレスの強度を調節して穏やかな強度の乾燥ストレスを与えることが重要である。本課題では、土壌で生育させた植物に適切な乾燥ストレス処理を施すための装置である土壌水分含量制御装置の開発に取り組んだ。土壌水分含量を示す指標として土壌の種類の影響を受けない土壌マトリックポテンシャル(pF)の値を用いた。土壌水分含量制御装置はpFセンサー、電磁弁、潅水ホース、制御ユニットから構成され、pFセンサーにより土壌中のpF値を連続的にモニタリングし、閾値として設定したpF値を超過すると電磁弁を開けて潅水した。最終年度においては、構築した制御 装置を用いてpF2.0、pF2.5、pF3.5という異なるpF値の条件下でイネ幼植物体を生育させ、地上部よりRNAを抽出しトランスクリプトーム解析を行った。トランスクリプトーム解析の結果、それぞれのpF値で生育させたイネの地上部において特異的に発現している遺伝子を見出した。また、それぞれのpF値で生育させたイネのシュートの基部のみをサンプリングしトランスクリプトーム解析も行った。その結果、生育の抑制が見られたpF3.5の条件下において多くの細胞分裂制御遺伝子の発現が減少した。さらに同じサンプルを用いてホルモノーム解析も行った。その結果、サイトカイニン、オーキシン量がpF3.5の条件下で減少した。これらの結果と前年度までの結果を併せ、pF3.5の条件下で見られた生育の抑制はサイトカイニン、オーキシン量の変化に伴う細胞分裂制御遺伝子の発現の抑制が関与していることが示唆された。また、開発した土壌水分含量制御装置の有効性が確認された。
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Plant J.
巻: 90(1) ページ: 61-78
10.1111/tpj.13468.