研究課題/領域番号 |
15K07262
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
小野 明美 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 特任助教 (90732826)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | lncRNA / DNA脱メチル化 / 遺伝子発現制御 / エピゲノム / 胚乳発生 / 環境応答 |
研究実績の概要 |
long noncoding RNA (lncRNA)は近年見出されてきた分子種である。遺伝子発現制御を始め、様々な生物学的機能を制御する重要な因子であることが明らかにされつつあるが、その作用機作については未知な点が多い。現在までに調べられたすべての真核生物に数多く存在することからイネ等作物の農業形質への関与も予測される。また、その機能にトランスポゾン(TE)が寄与することが推察されているものの、両者をつなぐ分子機構については不明な点が多い。本研究はイネにおけるlncRNAによる新規遺伝子発現制御機構の解明、および、その制御機構へのTEのエピゲノム修飾の貢献について理解していくことを目的としている。初期胚乳発生と環境応答に着目し、野生型イネ(日本晴)の次世代シーケンサーを用いたRNA解析によるlncRNAの探索、更にはエピゲノム修飾に関与する変異体との比較解析により、その制御機構を考察していく。前年度に確立しきれなかった栄養組織環境応答の解析系をTEに特化したカスタムマイクロアレイを用いて遺伝子発現を指標に再検討した。その結果、日本晴幼植物体を水耕栽培にて高塩処理を行うことで、再現性よく目的の遺伝子変動を捉えられることの期待される条件を確立した。また同じアレイを用いて初期胚乳発生におけるTEの経時的な発現の変化を解析した。その結果、着目している受精後の早い時期には、より多くの種類のTEや遺伝子の発現変動が確認され、この時期にTEのエピジェネティックな修飾にも変化があることが示唆された。日本晴初期胚乳については、既に確立したガラスキャピラリーを用いた回収法により必要なRNAの抽出を完了した。栄養組織環境応答の解析系についても、決定した処理条件で日本晴のRNA抽出を完了した。これらのサンプルについてはライブラリー調整に既に着手しており変異体についてもサンプルの調整を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に確立しきれなかった栄養組織環境応答の解析系について、TEアレイを用いた発現解析を指標に精査し評価の再検討を行った。当初の計画では日本晴を用いた初期胚乳、栄養組織環境応答解析系についての次世代シーケンサーによる網羅的なRNA解析まで完了する予定であったが、解析系の再検討の分、計画がややずれ込んだ。しかしながら、TEアレイの結果を踏まえて解析系を再評価することで、栄養組織環境応答解析系の条件の確立に至った。また同じTEアレイを用いて初期胚乳発生におけるTEの経時的な発現の変化を解析した結果、TEの発現の経時的な変動パターンが捉えられ、着目している受精後の早い時期には、TEのエピゲノム修飾に変化があることが示唆された。イネにおける初期胚乳、栄養組織環境応答解析系におけるlncRNAによる新規遺伝子発現制御機構の探索、更にはその制御機構へのTEのエピゲノム修飾の貢献を評価するために適した解析系を確立した。それぞれについて必要量の日本晴RNAの抽出を完了し、次世代シーケンサーによる解析のためのライブラリー調整に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
日本晴を用いた初期胚乳、栄養組織環境応答解析系については、前年度および本年度確立した方法により量・質をともに満たすRNA抽出を完了した。統計的な解析を行うにあたり、それぞれについて3反復とした。ライブラリー調整に既に着手しているので、今後、次世代シーケンサーを用いたRNA解析を順次行っていく。また日本晴のRNA解析データよりlncRNAを抽出するための情報処理のパイプラインも現在までにほぼ確立されたので、この解析手法に従って初期胚乳発生、栄養組織環境応答時のゲノムワイドな遺伝子発現変動、lncRNAの網羅的解析を行う。これと平衡して、エピゲノム修飾を担うDNA脱メチル化酵素遺伝子の変異体についても、同じ解析系・情報処理パイプラインを用いて同様のRNA解析を行う。日本晴と変異体について得られたそれぞれの解析結果を詳細に比較解析していくことにより、初期胚乳発生、栄養組織環境応答時におけるlncRNAによる新規遺伝子発現制御機構の探索と、その制御機構へのTEのDNA脱メチル化の貢献について考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンサーを用いたRNA解析を効率的に進めるために、複数のサンプルをプールし同時に解析を行う方法を選択することにした。その結果、統計解析に必要な反復数を考慮した目的のサンプルがすべて出揃うまで、次世代シーケンサーにかけるタイミングがややずれ込んだため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の研究計画通り、日本晴およびDNA脱メチル化酵素変異体について次世代シーケンサーによるRNA解析を進めていくので、そのために使用する。具体的には、ライブラリーの調整、次世代シーケンサーの運用、データの解析、それらに付随する消耗品に主に使用する計画である。効率的に研究計画を推進していく上で、それぞれの解析技術および周辺情報の収集は不可欠であるので、分子生物学会、遺伝学会等の関連学会や研究集会に参加し、情報の収集、技術の獲得に務める。また得られた成果について、積極的に学会発表および論文発表していくことを計画しているので、それらの機会に随時使用していく計画である。
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