水稲の葉身からの蒸散を育種的に強化することで得られる潜熱放散の増大は、群落内の冷涼化を通じて穂周辺の暑熱環境を緩和し、地球温暖化の進行により発生の増大が懸念される高温不稔等の高温生育障害を回避させる効果を示すことが期待される。本課題は、水稲品種の多蒸散変異体系統を材料として用いる圃場試験を通じてこれを実証しようとする。 今年度は昨年度までに引き続いて高知県内および茨城県内の試験サイトにおいて多蒸散変異体系統およびその原品種をいずれも圃場条件下で供試し、群落微気象データおよび作物関連データを取得した。 その結果、開花期においては、過年度と同様に、晴天日の日中に調査した多蒸散変異体系統の群落内気温が原品種のそれより明らかに低くなっており、年次によって異なる環境条件下においても、多蒸散による群落冷涼化の効果が安定して現れていることを確認した。今年度は高知県内の1サイトにおいて開花期の平均気温が過年度より高い高温年となった。単位面積あたりの穂数および千粒重は、多蒸散変異体系統・原品種とも過年度とほぼ同水準であった。しかしながら、多蒸散変異体系統と原品種の単位面積あたりの収量は、単位面積あたりの稔実粒数が減少したことを主因として、それぞれ過年度の44%および34%に激減した。多蒸散変異体では原品種と比べて稔実粒数の減少が10パーセンテージポイント抑制されており、群落冷涼化が高温不稔の回避に寄与したことが示唆された。
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