研究課題/領域番号 |
15K07280
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
寺尾 富夫 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業研究センター 作物開発研究領域, グループ長 (80355578)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 高温登熟 / 白未熟粒 / 高温耐性 / QTL / イネ(Oryza sativa L.) |
研究実績の概要 |
近年、登熟期の高温によるイネの白未熟粒多発が問題となっている。インド型品種のハバタキは高温下でも白未熟粒の発生が少ないため、そのQTLと原因遺伝子を明らかにして、登熟期の高温に強い品種育成の基礎とする。 昨年度、C3HT1からC3HT4までの4遺伝子にまで絞り込んだと報告したが、その後の解析で、ハバタキにはC3HT3とC3HT4の間に、約6kbpの領域が挿入されており、その中に遺伝子らしき構造が含まれていたことから、これをC3HT5とした。このC3HT5遺伝子は、その構造から転写因子である可能性が高い。また、この遺伝子は、ササニシキの幼果では、登熟中の気温にかかわらず、ほとんど発現しておらず、平温で登熟したハバタキの幼果でもほとんど発現していなかったが、高温で登熟したハバタキの幼果でのみ、発現量が大きく増加していた。高温により発現が誘導されることから、C3HT5が高温耐性QTLの原因遺伝子である可能性が高い。 マップベースでのQTL領域の絞り込みを続けており、本年度は、C3HT1およびC3HT4を切り離せる染色体乗換え系統が得られた。本年度の後代検定により、これら2遺伝子が原因であれば、原因遺伝子が確定する。しかし、C3HT2, C3HT3, C3HT5の間を切り離す染色体乗換え系統は出現せず、原因遺伝子がこの中に含まれる場合には特定には至らず、領域が30kbpに絞り込まれることになる。 C3HT2, C3HT3, C3HT4, C3HT5については、RNAiによる発現抑制コンストラクトを作成し、日本晴(C3HT4のみ)と、QTL候補領域がハバタキ型に分離した準同質遺伝子系統に導入した。また、C3HT5については、ユビキチンプロモーターによる過剰発現コンストラクトを作成し、ササニシキに導入した。系統により異なるが、再分化からT1世代種子がとれる段階になっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マップベースでの遺伝子の絞り込みはあまり進展していない。しかし、公表されている日本晴等のゲノムシーケンスに含まれていない遺伝子が、ハバタキに挿入されていることが新たに見いだされ、しかもそれが高温登熟条件でのみ発現していることから、原因遺伝子に行き当たっている可能性が高い。その場合には、遺伝子特定に進展すると思われるが、これが原因遺伝子で無い可能性も残っており、現時点ではやや遅れているとの判断である。 RNAiによる発現抑制や過剰発現による遺伝子組換えによる原因遺伝子特定については、順調に進んでいるが、研究期間中にT2世代での結果が出るかどうかは微妙である。一部の遺伝子(C3HT4等)では可能と思われるが、一部は間に合わない可能性がある。 遺伝子組換え系統での遺伝子発現を調べることにより、このQTLの原因遺伝子が転写調節因子であり、他の例えば熱ショックタンパク質のスイッチを入れているかどうかの可能性を調べることができ、発現調節機構の一部は明らかになる可能性が高い。
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今後の研究の推進方策 |
C3HT1とC3HT4、およびC3HT2, C3HT3, C3HT5を含む領域が分離した系統を圃場に展開して、遺伝子の分離と白未熟粒発生の関係を調べることにより、原因遺伝子あるいは原因遺伝子を含む領域を決定する。その結果、原因遺伝子がC3HT1、あるいはC3HT4であった場合には、原因遺伝子が特定できる。C3HT2, C3HT3, C3HT5のうちのどれかである場合には、次の遺伝子組換え系統の解析により原因遺伝子を確定する。 遺伝子組換え系統のT2世代の種子の白未熟粒発生程度を調べることにより、C3HT2, C3HT3, C3HT4, C3HT5のどれが原因遺伝子かを特定する。 遺伝子組換え系統のT1およびT2世代での原因遺伝子ならびに原因遺伝子から転写調節を受けている可能性がある遺伝子の発現量等を調べることにより、高温登熟耐性が発現するメカニズムを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額473,640円は、研究費を効率的に使用して発生した残額である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、次年度に請求する研究費と合わせて、研究計画遂行のために使用する。
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