研究課題/領域番号 |
15K07282
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
西澤 隆 山形大学, 農学部, 教授 (10208176)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トマト / microcracking / つやなし果 / 水ストレス / ホウ素 / 紫外線 / 環境ストレス / 果皮 |
研究実績の概要 |
トマトのつやなし果は果皮表面に微細な傷が出来ることでつやが無いように見える生理障害で,ほぼ100%の株で発生することもある.つやなし果は低温障害とされていたが,近年,夏季に栽培されたものでも発生が見られるようになったため,つやなし果の発生には複数の要因があると考えられるようになった.本研究では,つやなし果の発生と特徴を明らかにするため以下の実験を行った.実験1:‘キャロルパッション’,‘ロッソナポリタン’,‘千果’,‘サンチェリーピュア’を使い,つやなし果の形態的特徴を調べた.実験2:果実肥大期の急激な膨圧または果皮の硬化による弾性の低下が原因と考え,‘麗果’,‘麗容’,‘桃太郎ファイト’で低温,紫外線,水ストレス処理を果実肥大期と結実期から約1ヵ月間行い,つやなし果発生率を調査した.実験3:ホウ素は細胞壁を硬化させることから,‘千果’,‘ミニキャロル’でホウ素過剰処理を果実肥大期からそれぞれ約1か月間行い,つやなし果発生率を調査した. [結果および考察]実験1:つやなし果の発生には品種間で違いが見られ,‘ロッソナポリタン’や‘千果’では表皮細胞の大きいものほど傷が発生しやすい傾向が見られた.実験2:果実肥大期からのストレス付与と比べて,着果期からでは低温以外のストレスでもつやなし果発生が見られたが,発生率はどの処理区でも30%以下で,有意差は無かった.実験3:ホウ素過剰処理ではどの品種も50ppmでつやなし果が見られたが,発生率は20%以下であった.これらの結果から,環境ストレスによるつやなし果発生率は品種や果実の発育段階によって異なり,発育段階が初期のものほど影響を受けやすいと考えられる.しかし,今回の実験では,どの処理区でもつやなし果の発生率は30%未満であったことから,これら以外の要因もつやなし果の発生に関わっている可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度として,「つやなし果」の形態的特徴及び発生率の調査を行い,「つやなし果」が果皮全体に発生するmicro-crackingであることを明らかにした.更に,「つやなし果」は低温条件下のみで発症する生理障害ではなく,温度ストレス以外にも発症要因が存在することを明らかにした. また,「つやなし果」は果実の大きさとは関係なく,大玉,中玉,ミニトマトどの品種であっても生産現場で発生していること,球形,卵形どちらの品種でも発生すること,果実の一部だけではなく,果皮表面全体に渡って亀裂が生じていることから,果実の特異的な形状によって果皮の一部のみに力学的な張力が作用する結果として亀裂が生じるのではなく,果実全体の膨圧が果皮の亀裂発生に大きな影響を与えていることが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
「つやなし果」の発症要因として考えられる,低温,紫外線,ホウ素,水ストレスといった各種のストレスは,必ずしも「つやなし果」を発症させる主要因として作用しなかった.また,果実の形状による特異的な部位への張力の集中よりもむしろ,果実全体を肥大させる膨圧が「つやなし果」の発症に重要な働きを及ぼしていることが示唆された. こうした初年度の試験結果を受け,今後は,果実の内部膨圧の変化と果皮の強度変化を中心に試験を行う.すなわち,果実の内部膨圧は溶質の増加に伴う水ポテンシャルの低下と共に高まるが,その一方で果皮の物理的耐性は,果実の成長に伴って増加する.また,一般に各種ストレスに対する果皮の耐性は,クチクラの発達が不十分な幼果期ほど弱く,環境ストレスの影響を受けやすいことから,果実の成長過程における物理的ストレスに対する果皮の耐性変化を中心に明らかにする. こうした結果を総合的に考察することによって,果皮のストレス耐性と「つやなし果」発症メカニズムを明らかにする.
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