近年「つやなし果」と呼ばれるトマトの生理障害果が周年を通して発生し,多い時には収穫果の80%以上にも及ぶことがある.「つやなし果」は,果皮から光沢が失われ日持ち性が悪くなるため,商品価値が著しく低下する.代表者は,「つやなし果」がトマト表皮のクチクラのみに微細な亀裂が入り,光を乱反射することによって生じる生理障害であることを明らかにした.亀裂が表皮細胞まで達すればリグニン形成が起こり目視で判断できるが,透明なクチクラのみに亀裂が入った場合,目視での判断は困難である.「つやなし果」の発生要因として,UV,低温,水ストレス,ホルモン量,ホウ素(B),カルシウム(Ca)などを検討したが,いずれも単独要因では「つやなし果」を確実に発生させることはできなかった.一方Bが欠乏するほどクチクラ量が減少したことから,B欠乏が「つやなし果」発生の一因として考えられた.しかし,「つやなし果」のB含量は低い傾向があるものの,「つやなし果」と同程度のB含量でも「正常果」になる果実も多く,特に実験的に1果房のみを残して育てた場合には極端なB欠乏下でも「つやなし果」は全く発生しかった.この矛盾を解釈する手掛りとして,「つやなし果」の発生率が,①下位節の果実では遅く収穫するほど高い,②曇天下や高湿度下ほど高い,③B施与量を減らして遮光率を上げるほど発生頻度が高いという実験データが得られた.こうした結果から,「つやなし果」はB欠乏単独で生じる生理障害ではなく,B欠乏によってクチクラ生成量が阻害された状態で,高湿度や葉による遮光により果実からの蒸散が抑制された場合,クチクラが内部膨圧に耐えられずに亀裂を生じる一方で,クチクラに亀裂が入ることで膨圧が下がるため表皮細胞にまでは亀裂が入らないのではないかと考えられた.今後は,この仮説を検証するための実験系を確立し,「つやなし果」の発生メカニズムを解明する.
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