研究課題/領域番号 |
15K07289
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
山根 京子 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (00405359)
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研究分担者 |
矢野 健太郎 明治大学, 農学部, 専任教授 (00446543)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 葉緑体 / ゲノム / 分岐年代 / 栽培化 / 地史 / 気候変動 / 伝播 |
研究実績の概要 |
供試材料は主要栽培品種(‘島根3号’、‘真妻’)と、山根により収集された在来品種(石川県、高知県)および自生ワサビ(北海道)、ユリワサビの全6系統である。DNA抽出は改変CTAB法を用い、葉緑体ゲノムの解読は当研究室で既に解読済みの標準系統 ‘ふじだるま’の配列情報をもとに作成したプライマーによりサンガー法で行った。石川在来では全配列を、高知在来、‘島根3号’、ワサビ自生種(北海道)、ユリワサビ(岐阜県)の4系統では長い逆反位反復配列以外の全配列を ‘真妻’では約13kb決定した。単一母系由来の可能性が示されていた‘ふじだるま’と‘島根3号’の部分配列約63kbを比較した結果、二か所で多型がみられ、少なくとも同一個体起源ではないことがわかった。高知在来は少なくとも約70年前から他品種が一切導入されない状態で放任栽培のもと、自然繁殖により維持されてきた古い系統である。そのため、‘だるま系’品種は静岡県で育成されてから現在まで、多数の品種の母系親として幅広く利用されてきたことが明らかとなった。一方、石川在来の全葉緑体ゲノム配列を‘ふじだるま'と比較したところ、分岐時間が約32万年と推定された。‘真妻’も同様の結果が得られたことから、栽培わさびは少なくとも3回以上独立して起源した可能性があることがわかった。石川在来が現地保全されている白山地域では、わさびが古くから薬草として利用されてきた伝承記録がある。肥大した根茎は選抜の結果であると考えられるものの、静岡県で生じた現在のような薬味としての利用のための栽培化とは異なる目的で行われていた可能性が高い。また、約13kbの配列情報を用いてベイズ法により系統関係と分岐年代を推定した結果、日本のワサビ属植物2種がいつ頃、どのようにして大陸の共通祖先から伝播経路してきたのか、日本における地史をふまえて考察できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は平成28年度中に塩基配列決定は終えている予定であったが、若干残ってしまっている。予想外に領域増幅が難しい箇所が存在し、壁を乗り越えるのに時間がかかってしまった。しかしながら、全て解決し、あとは順調に解読をすすめ、一部の配列を使って分岐年代の推定もできた。残りの一年間で必ず遂行できるはずである。
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今後の研究の推進方策 |
残りわずかであるが、塩基配列を決定し、複数個体の葉緑体全ゲノムの解読を完了させる。あと数か月で完了予定である。その後はシュミレーションを実施し、地史や気候変動データと配列データを組み合わせて、日本のワサビが大陸からどのように伝播したのかを推定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度予定より遅れていた進捗状況を、平成28年度はかなり挽回し、全葉緑体ゲノムを解読する基本的な技術と情報をそろえることができた。しかしながら、完全に遅れを取り戻すには至っておらず、若干の塩基配列解読分を残したのと同時に予算も残すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
しかしながら、前述したとおり実験は極めて順調に推移しており、現時点でほぼ予定数に達する配列データは入手できている。残りの一年で配列を完全に読んでしまい、あとはシュミレーションにより進化系譜を構築し、品種のバーコーディング化を実践する予定である。経費の使用については、そのほとんどを配列を完全に解読することを目的として、当学ゲノムセンターへの受託解析費用にあてる予定である。また、塩基配列解読にあってた必要な試薬を消耗品として購入する予定である。
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