キクの新品種の作成には,交配、芽条突然変異、放射線突然変異が利用され、クローン増殖技術(挿し芽)を利用して大量苗が生産されている。しかし、これら栽培ギク品種は自家不和合性であるために、F2 世代以降の自殖子孫を得ることが困難で、近代的な遺伝育種への展開がなされないまま現在に至っている。私は二倍体キクタニギク野生集団から自殖個体を発見した。この自殖遺伝子を栽培ギクに導入することによって、優良候補形質を自由にホモ化できる「自殖種子繁殖による新栽培ギク育種法」の確立を目指している。 これまでに作成してきたBC2F2ラインとBC1F2ラインからBC2F3子孫とBC1F3子孫を得た。その後代自殖性と有用な育種形質の遺伝的特性解析を行った。BC2F2世代で交配親の栽培ギクに見られた管弁、八重、頭状花サイズなどの形質の分離が見られた。この世代では劣性ホモ化(管弁)が1/256の確率で期待されたが、ホモ化したと考えられる個体は見られなかった。まだほとんどがキクタニギクと親栽培ギクの中間的な形質と考えられる発現であった。その中で特徴的な栽培ギクの長管さじ弁品種に関してはBC2F1世代で初めて管弁が見られた。しかし舌状弁の1~数小花と限られた発現であった。BC2F2世代においても部分的に管弁をもつ子孫に限られていたが、BC2F3世代で初めて完全な管弁系統が6系統出現した。BC2F3世代で、自殖種子で繁殖する完全な管弁系統の劣性ホモラインの第1世代が確立した。また、この完全な管弁の発言から、長管さじ弁は完全な管弁遺伝子のヘテロな状態の発現であることが推察された。以上の成果は、新たに種子繁殖による育種を可能にしたものであり、遺伝学に基づいた有用遺伝子の組み合わせによる「デザイン」が可能になり、栽培ギクでネックになっていた育種効率の大幅な短縮が可能となった。
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