研究課題/領域番号 |
15K07294
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
吉田 理一郎 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (70301786)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 植物間コミュニケーション / シグナル伝達 / 植物ホルモン / 環境ストレス応答 / 揮発性化合物 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、バジルから放出される揮発性化合物がトマトのストレス応答におけるプライミング誘導に与える効果とそのシグナル伝達機構を中心に研究を進めた。 トマトの傷害応答におけるプライミング効果は、バジル葉由来のエッセンシャルオイル(EO)によっても同様に誘導されることが明らかにされた。そこで、バジルEOに含まれる主な揮発性化合物(linalool, chavicol, eugenol, α-terpineol, (z)-3-hexenol)に着目し、それぞれにおける傷害応答遺伝子PI2のプライミング誘導能を検討した。その結果、linaloolで安定的な効果が認められた。しかしながら、他の化合物でも短時間(30分)の暴露のみで効果を示すもの、長時間(15時間)の暴露で効果を示すもの、高濃度では逆の効果を示すものも認められられた。 次に、バジルEOによる傷害ストレス応答への影響について、傷害後1時間以内の早い時間帯における遺伝子発現量の変動を調査した。その結果、ジャスモン酸(JA)合成およびシグナル伝達に関与する遺伝子の発現に対して顕著なプライミング効果が認められた。バジルEOは、傷害時に発生する活性酸素(ROS)の蓄積量を増加させる効果が確認された。これに伴い、ROS発生に関わるNADPH-oxidase遺伝子、RBOH1およびWfilの発現量も増加していた。傷害シグナルの情報伝達に関与することが報告されているタンパク質リン酸化酵素MAPキナーゼ遺伝子LeMPK1、LeMPK2の発現量も顕著に増加しており、傷害誘導性のLeMPK3の発現に関しては明確なプライミング効果が認められた。 バジルEOは、傷害ストレスだけではなく、低温ストレス応答の重要な転写因子であるトマトCBF1遺伝子の発現に関してもプライミング効果を誘導することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バジルとの混植によるトマトストレス応答のプライミング効果がバジルの葉から放出される揮発性化合物に起因することが確認されたことは、今後の研究の方向性を明確化してくれた。また、プライミング効果に関わるシグナル伝達機構についても、有益な情報を得ることができた。特に、バジル精油がROS生成およびタンパク質リン酸化酵素であるMAPKの発現を誘導することは、外部ストレスに対してReady-to-goの状態を維持していることを示唆しており、プライミング機構の解明に大きな役割を果たしていると推測できる。 また、バジル精油は、低温応答に関しても促進する効果が認められたことは新たなる知見であり、次年度の展開が期待される。 傷害応答に関してはJAが中心的に機能することが本研究により明らかにされてきたが、更に確実なものとするためには実際にJAの生成量を定量する必要がある。今年度、LC-MSによる植物ホルモン定量を試みたが、大学内の共通機器の不具合により実現できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた成果をベースとし、1)バジルEOの環境ストレス応答に対するプライミング誘導機構の解明、2)バジルEOによる環境ストレス耐性能の変化、そして、3)バジルEOによるトマト果実形成への影響 の3課題に着目する。 1)については、バジルEOで誘導されるプロシステミン遺伝子(PSYS)、LeMPK1、LeMPK2、RBOH1およびWfilに注目する。特に、PSYSは外傷によって合成されるトラウマチンにより発現が誘導されることが報告されている。バジルEOを構成する揮発性化合物による応答を調査する。一方、今年度はJAシグナル伝達に関わる重要な転写因子LeMYC2の過剰発現トマト系統の作出に成功した。そこで、その形質転換体を用いて傷害に対する感受性の変化を調査する。また、低温応答におけるプライミング効果について、発現誘導の温度感受性の変化、あるいは、JAシグナルとの関連性について検討する。 2)については、これまでに得られた成果の具体的なアウトプットとして注目したい。既にトマト斑点細菌病(Xanthomonas campestris)に対する抵抗性試験を行っており、予備的ながらポジティブな結果が得られている。今年度は、その抵抗性についてqPCR法を用いた具体的な数値化を検討する。また、植食性昆虫であるハスモンヨトウに対する食害抵抗性についても検討する予定である。更に、低温傷害に対する耐性能についても調査する。 3)については、バジルとの混植がトマト果実内における揮発性化合物の合成酵素遺伝子の発現を抑制する効果が確認されている。今年度は、バジルEO存在下で生育させた果実で同様な効果が認められるかを調査する。また、果実の抗酸化活性に与える影響ついても検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
JA等、植物ホルモンの定量にかかる経費を確保するため。
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次年度使用額の使用計画 |
学内の分析機器あるいは外部による分析委託の費用にあてる予定である。
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