これまでの研究では栄養枝の上位葉を中心に強光障害の発生の解析を行ってきた.しかし一部の系統において,花房の着生した着花枝の葉で障害が深刻化する傾向が観察された.本年度は,着花枝と栄養枝の強光感受性の比較を中心に解析を行った.強光感受性の高いヤマアジサイ系園芸品種を1品種,強光耐性の高いガクアジサイ野生種を2系統,強光感受性が比較的高い園芸品種を1品種供試した.各品種・系統について,着花枝と栄養枝を各4本供試した.強光耐性をもつ品種・系統では,栄養枝と着花枝のいずれにおいても障害の発生はわずかであった.しかしガクアジサイ野生系統の1本の着花枝において,葉面積全体の50%以上が褐変化した重度の障害が発生した.強光感受性品種では,栄養枝に比べて着花枝で重度の障害が発生する傾向が認められた.着花枝において花芽の摘除を行った処理区では,障害の発生が栄養枝と同程度に抑制された.光化学系Ⅱの最大量子収率(Fv/Fm)について5月に計3回の測定を行った結果,5月下旬の2回の測定においていずれも栄養枝に比べて着花枝で有意に値が低かった.6月中旬の障害程度の調査において最も障害が著しく,葉面積の8割が褐変化していた着花枝の葉では,5月下旬において最大量子収率(Fv/Fm)の著しい低下が認められた.以上の結果から,栄養枝に比べて着花枝で強光障害の感受性が高いことが明らかとなった.栄養枝に比べて着花枝で障害が強くなる原因として,同化産物の供給や無機養分の競合などの花芽の着生による直接的な影響と,枝の頂部に花芽が着生するとともに新たな葉の形成が止まり,花芽直下の葉は最上位葉として長期にわたって日光にさらされ続けることになる影響が考えられる.しかし栄養枝の花芽摘除処理や栄養枝の頂芽摘除処理の結果から,日光に対する露出の長期化が,着花枝における強光障害発生の原因ではないことが示唆された.
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