研究課題/領域番号 |
15K07302
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
西谷 千佳子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹茶業研究部門 品種育成研究領域, 上級研究員 (10370553)
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研究分担者 |
井上 栄一 茨城大学, 農学部, 教授 (90292482)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ニホンナシ / みつ症 / マイクロアレイ |
研究実績の概要 |
ニホンナシの『みつ症』は、果実成熟の進行に伴い果肉の褐変化などの症状を呈する生理障害で、多数の遺伝子が関与する難関形質とされるが、その遺伝子群の実体は不明である。本研究の目的は、申請者らが作出した『みつ症』“激発系統”と“非発症系統”の兄弟系統二組で特徴的な発現様式を示す遺伝子群を網羅的解析で抽出し、『みつ症』発症のメカニズムを解析することである。 兄弟系統の一組目については、2012年から2014年の科研費で遺伝子発現解析を行ったため、本研究では二組目の兄弟系統の比較として遺伝子発現解析を行うところからであり、2016年度までに二組目のマイクロアレイ実験と解析を終了した。その結果、二組目の兄弟系統において、『みつ症』“激発系統”で発現量の高い遺伝子(3倍)、低い遺伝子(1/3倍)としてそれぞれ763遺伝子、1340遺伝子が抽出された。 さらに、一組目の兄弟系統と共通して、『みつ症』“激発系統”において発現量の高い遺伝子(3倍)、低い遺伝子(1/3倍)に絞り込んだところ、それぞれ40遺伝子、75遺伝子に絞り込まれた。これらの遺伝子群の中には、メタロチオネイン、インベルターゼ、オーキシン、エチレンに関連する遺伝子群が含まれており、これらの遺伝子群が『みつ症』発症に関連する可能性が高いと推測された。今後は、これらの遺伝子群の配列の品種間多型を解析することで、既存品種の『みつ症』発症程度のデータと照らし合わせて、さらに『みつ症』に関連すると思われる遺伝子群を絞り込みたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2016年度の目的は、二組目の兄弟系統について、経時的な遺伝子発現比較を行い、一組目の兄弟系統の遺伝子発現比較の結果と共通して、『みつ症』“激発系統”で発現量の高い遺伝子、低い遺伝子を抽出することであった。複数の兄弟系統で共通する遺伝子を見つける必要があるのは、兄弟系統とはいえ、『みつ症』発症の程度以外にも、果実の大きさ、pHなど、『みつ症』とは直接関係無いと考えられる形質の差異があるため、それらに関連する遺伝子も拾ってしまう恐れがあるためである。 2016年度までに二組目のマイクロアレイ実験と解析を終了し、二組目の兄弟系統において、『みつ症』“激発系統”で発現量の高い遺伝子(3倍)、低い遺伝子(1/3倍)としてそれぞれ763遺伝子、1340遺伝子を抽出した。さらに、一組目の兄弟系統と共通して、『みつ症』“激発系統”において発現量の高い遺伝子(3倍)、低い遺伝子(1/3倍)に絞り込んだところ、それぞれ40遺伝子、75遺伝子に絞り込まれた。共通の遺伝子を絞る前と比較すると一割にもならず(40/763、75/1340)、やはり複数の兄弟系統を使う必要があったと考えられ、今年度の目的は順調に達成したといえる。 今後、さらに遺伝子群を絞り込む必要があるが、今後は、品種ものに適用できる遺伝子を同定するために、品種の『みつ症』発症程度に差異と関連する遺伝子群を同定していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で、ニホンナシの『みつ症』発症程度に応じて発現量に差異のある遺伝子群として、『みつ症』“激発系統”において発現量の高い遺伝子(3倍)、低い遺伝子(1/3倍)がそれぞれ40遺伝子、75遺伝子に絞り込まれた。本遺伝子群は、「豊水」と「新高」のF1兄弟、および「あきあかり」と「太白」のF1兄弟系統の二組の兄弟系統の解析で絞り込んだものである。この兄弟系統は毎年全ての果実に『みつ症』を激発する系統と、全く発症しない系統であったため、再現性の良い実験系統として利用したが、今後は、品種に適用できる遺伝子に絞り込んでいくことが必要である。 申請者の所属する、農研機構果樹茶業研究部門では、ナシの栽培品種(約100品種)について『みつ症』発症程度のデータを保持している。これらのなかの主要品種についてゲノムDNAを抽出し、『みつ症』関連遺伝子群のゲノム領域(イントロン、プロモータ含む)の配列情報を取得する。『みつ症』発症程度とDNA配列の多型を解析し、『みつ症』発症程度に呼応した配列上の多型を見いだす。DNAの配列はサンガー法または、数が多い場合は次世代シーケンサで取得する。この配列上の多型をなるべく検出しやすい方法(シーケンサでは無くゲル電気泳動など)で検出できるようなDNAマーカーとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
マイクロアレイ実験について、申請時の計画よりもサンプルを減らして行ったため、次年度使用額が0円よりも大きくなった。サンプル数の絞込みについては、『みつ症』発症について経時的に観察した結果、『発症』の直前の遺伝子発現が変わる時期を見極めることができたため、絞り込むことが出来たものである。また、マイクロアレイ実験に使用した兄弟系統は品種ではなく、品種同士の交雑で見出したF1系統であるため、品種ものの解析に重点化したほうがベターとの判断で、マイクロアレイ実験の規模を縮小し、品種ものの解析に予算を当てることとする。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度までに、マイクロアレイ解析で『みつ症』に関連しそうな遺伝子を115個に絞り込むことができた。しかし、本解析では品種間のF1系統を使用していることから、今後は、品種に適用できる遺伝子に絞り込む必要がある。そこで、農研機構果樹茶業研究部門に保存している品種もののニホンナシについて、過去の『みつ症』発症データを基に、『みつ症』を発症しやすい品種、発症しにくい品種を絞り込み、これらの遺伝子群のゲノム配列の差異を調べることで、品種ものの『みつ症』発症程度に関連する遺伝子群をマーカー化していく計画である。このため、品種のDNA抽出、シーケンス解析に使用する。
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