本研究課題では、トマトに対する病原性の異なる半身萎凋病菌(Verticillium dahliae)の菌株を擬有性生殖により交雑して遺伝的組換え株を作出し、病原性を示す組換え株に共通するゲノム領域を探索することで、病原性を決定する遺伝因子の探索を行った。前年度までに、DNAマーカーT12が座乗する染色体(T12染色体)の長腕側のゲノム領域が、半身萎凋病菌のトマトに対する病原性に関与する可能性が示された。今年度は、擬有性生殖による遺伝的交雑に使用した親株のひとつであるCns(トマトに病原性を示さない)の全ゲノム配列のドラフト解析を行い、すでに解析されていたもう一方の親株TV103(トマトに病原性を示す)のゲノム配列と比較することで、T12染色体上に多数のDNAマーカーをデザインして解析を行った。その結果、トマトに病原性を示す組換え株に共通するゲノム領域を約1Mbpにまで絞り込むことができたが、この領域内で組換えを生じている菌株がなかったことから、それ以上の絞り込みが困難であった。そこで、改めて擬有性生殖による菌株の遺伝的交雑を行い、新たに約370株の組換え株を得た。これら組換え株のトマトに対する病原性を接種試験により調査するとともに、前述のDNAマーカーを用いて解析を行った。その結果、トマトに病原性を示す組換え株に共通するゲノム領域を約113kbpに絞り込むことができた。従って、この領域に半身萎凋病菌のトマトに対する病原性(宿主特異性)を決定する何らかの遺伝子が存在すると考えられた。
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