研究課題/領域番号 |
15K07311
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 千尋 京都大学, 農学研究科, 教授 (60263133)
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研究分担者 |
泉津 弘佑 滋賀県立大学, 環境科学部, 助教 (20579263)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 付着器形成 / 形態形成 / 糸状菌 / 多糖類 |
研究実績の概要 |
物理疎水面認識に関わるOPY2遺伝子の破壊株を供試し,付着器形成関わる宿主植物上に存在する化学因子の探索・同定を試みた.イネいもち病菌で付着器形成誘導因子として報告されているクチンモノマー等では,供試遺伝子破壊株において付着器形成が認められず,これらの化学物質は本菌の被認識因子ではないと考えられた.次に,宿主トウモロコシ葉のヘキサン,メタノール,水の各抽出物について,付着器形成の誘導の有無を調べたところ,有意な結果は得られなかった.また,ヘキサン抽出処理後のトウモロコシ葉をも用いて,付着器形成の有無を調べた.その結果,OPY2遺伝子破壊株において有意な付着器形成が認められた.このことから,トウモロコシごま葉枯病菌の付着器形成時に認識される植物因子は今回処理した溶媒あるいは抽出条件では不溶あるいは難溶の物質であると思われた.また,OPY2遺伝子破壊株は宿主植物以外の葉上においても付着器を形成することより,被認識因子は複数の植物種に普遍的に存在する物質であることが示唆された.そこで,植物由来の高分子化合物についてOPY2遺伝子破壊株の付着器形成誘導能について調査したところポリガラクツロン酸ならびにペクチンがその活性を持つことが明らかになった.さらに,MSB2, SHO1各遺伝子破壊株においても,付着器形成を誘導した.また,MSB2. SHO1, OPY2下流で付着器の形態形成に関わると考えれているSte50、Ste11、Chk1の各破壊株では,これら化合物による付着器形成の誘導は認められなかった.したがって,トウモロコシごま葉枯病菌はMSB2. SHO1, OPY2で物理疎水面認識を行い,これらとは別に存在する未知の経路を用いて宿主のペクチンを認識し付着器形成に関わる情報伝達系にシグナルを流しているものと考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度に予定した植物因子の同定に関わる実験の約7割は遂行できた
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今後の研究の推進方策 |
植物因子の認識に関わる経路についての探索をおこなう.他の糸状菌で明らかになっている因子,例えばPag1などの破壊株を作出し,表現型を調査する.OPY2破壊株にさらなる突然変異処理を行い,植物体上で付着器形成を行わなくなった変異株を見出し,突然変異遺伝子の同定を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度,植物因子の同定実験を予定していた.植物表層に存在する高分子の油脂類と予想し,分析のための多くの標品や消耗器具を購入する予定であったが,実際には細胞間隙に存在するペクチンおよびポリガラクツロン酸が実体であることが年度内に同定できたので,それら試薬経費を使用しなかった.また,物質が同定できたことから,当初予定していた疎水性シグナル経路の解明だけでなく,植物因子認識経路の解明も合わせて行い,付着器形成に関わる経路の包括的解明を目指す実験を次年度に計画しその費用として流用する必要が生じたため.
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次年度使用額の使用計画 |
植物因子認識経路の解明を行うために,突然変異株の作出ならびに遺伝子同定の経費として利用する.
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