ペクチンならびにポリガラクツロン酸の付着器形成誘導活性を比較した.その結果,ペクチンは,その原材料により効果の差はあるものの,ポリガラクツロン酸より高い形成誘導活性を有していた.またペクチンの構成要素であるラムノースについても,活性を調べたが,ラムノースでは付着器形成誘導は認められなかった.ペクチンは植物細胞壁の主要構成要素であり,その分解産物は多くの植物病原菌の細胞壁分解酵素の誘導因子となっていることが知られている.付着器形成だけでなく,細胞壁分解酵素の発現誘導も含めて解析する必要性が見出されてきた. 酵母ではSTE50がMSB2,SHO1,OPY2のシグナル伝達経路の上流因子であると考えられている.そこで,トウモロコシごま葉枯病菌のホモログ間で相互作用が認められるか否かをyeast two hybrid法を用いて確かめた.その結果,OPY2はSTE50と相互作用を有しており,物理的疎水面認識機構に関わるシグナル伝達系は保存性が確認できた.また,トウモロコシごま葉枯病菌以外の殺生的な植物病原糸状菌においても,OPY2の役割を確かめたところ,トウモロコシごま葉枯病菌と同じであった.真菌において,多くのシグナル伝達に関わるコンポーネントは保存されており,それぞれのコンポーネントを使う場面は,菌種の生活史・生態的進化に合わせて転用されていることが示唆された. 植物成分認識による付着器形成過程をさらに明らかにするため,OPY2破壊株に突然変異処理し,ペクチン存在下で付着器形成を行わない変異株のスクリーニングを行なった.目的の変異株は得られなかったが,突然変異遺伝子をリファレンスゲノム情報を利用して同定するための手法ならびにプログラムを作成した.これらを用いて,多相遺伝に関わる突然変異遺伝子の同定を行い,手法ならびにプログラムの有用性を実証した.
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