研究課題/領域番号 |
15K07320
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研究機関 | 岡山県農林水産総合センター生物科学研究所 |
研究代表者 |
向原 隆文 岡山県農林水産総合センター生物科学研究所, その他部局等, 専門研究員 (80344406)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エフェクター / グルタチオン / チオレドキシン / 病原菌 / 植物 |
研究実績の概要 |
青枯病菌Ralstonia solanacearumは、植物感染時にIII型分泌系から約70種類ものエフェクターを宿主細胞内に注入する。研究代表者は青枯病菌のRipAYエフェクターが宿主細胞内でγ-グルタミルシクロトランスフェラーゼとして働き、植物の病害抵抗反応に必須なトリペプチド、グルタチオン(GSH)を特異的に分解することを見いだした。興味深いことに、大腸菌で発現させたRipAYタンパク質はGSH分解活性を示さず不活性型であったが、植物や酵母由来の真核細胞抽出液を加えた場合には活性型となり、強いGSH 分解活性を発揮した。今年度、RipAYを活性化する真核タンパク質を生化学的手法で精製したところ、チオレドキシンが同定された。チオレドキシンは生物に普遍的に存在するが、RipAYのGSH分解活性は真核型チオレドキシンでのみ活性化され、原核チオレドキシンでは活性化されなかった。植物では発現量や組織特異性、細胞内局在性が異なるチオレドキシンが複数存在することが知られている。RipAYは細胞質に多量に存在するチオレドキシンhで強く活性化されたが、葉緑体型チオレドキシンでは全く活性化されなかった。RipAYが細胞質に局在することも明らかとなり、RipAYの局在場所に多量に存在するチオレドキシンによってその酵素活性がオンとなるように上手くチューニングされていることが示された。これまで、宿主と病原菌に共通する細胞成分を標的とするエフェクターでは病原菌自身の生育に影響を及ぼさないよう酵素活性が厳密に制御されていると考えられていたが、本研究から、その宿主因子の一つが植物チオレドキシンであることが明らかとなった。さらに、チオレドキシンによるRipAYの活性化にはジスルフィド還元活性は寄与しておらず、チオレドキシンによる新規なタンパク質活性化機構の存在が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の目的であった、RipAYエフェクターを活性化する植物因子の同定を初年度に達成できたため、研究はおおむね順調に進展しているといえる。チオレドキシンは比較的安定なタンパク質であり、タンパク質精製と同定を比較的短期間で遂行することができた。チオレドキシンに関してはこれまで様々な研究報告がなされており、その情報を活用することで研究が順調に進展した。シロイヌナズナのチオレドキシン各タイプの遺伝子情報も公開されており、大腸菌系で一連の組換えタンパク質シリーズを揃えることができたため、今後、in vitro系での詳細なタンパク質機能の解析も問題なく進められると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はRipAYエフェクターによる植物細胞内GSHの分解が病原菌にとってどのようなメリットがあるかを明らかにしていく予定である。シロイヌナズナのGSH低蓄積変異株では病原菌に対する抵抗性が大きく低下することが知られており、植物が有する様々な抵抗反応への影響をRipAY発現植物を用いて調べていく予定である。チオレドキシンによるRipAYの活性化メカニズムもin vitro系で詳細に解析したい。RipAYが病原菌の細胞内で不活性型で維持されることは、GSHが病原菌にとって非常に重要な役割を果たしていることを強く示唆する。病原菌のストレス耐性や生育におけるGSHの役割も詳細に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
極めて少額の残金であったため、次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
極めて少額であるため、特段の使用計画はない。
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