青枯病菌のRipAYエフェクターは植物の自然免疫系で重要な役割を果たしているグルタチオン(GSH)を特異的に分解することで植物の病害抵抗反応を抑制する新奇な病原エフェクターである。RipAYは青枯病菌内では不活性型タンパク質として発現・維持され、GSH分解活性を示さないが、植物細胞内に移行すると植物チオレドキシンにより活性化され、強力なGSH分解活性を発揮する。この結果から、青枯病菌においてGSHが重要な細胞機能を担っていることが強く示唆された。一般的なグラム陰性細菌ではGSHは二段階で合成され、各段階で働く合成酵素はgshA及びgshB遺伝子にそれぞれコードされている。青枯病菌のgshAB変異株を作出して細胞内のGSH含量を調べた結果、gshAB変異株ではGSHの合成能力が失われていることを確認した。gshAB変異株の表現型解析から、過酸化水素やメチルグリオキサールに対する耐性が大きく低下していることが示され、GSHが病原菌の酸化ストレス応答経路や解毒経路で重要な働きをしていることが明らかとなった。さらに、gshAB変異株はGSHを含まない最少培地中では完全に生育が停止すること、最少培地に1mM GSHを添加すると野生型菌株と同程度までに生育が回復することことから、青枯病菌の生育にGSHが必須であることが明らかとなった。以上の結果から、植物チオレドキシンに依存したRipAYの宿主細胞内特異的な活性化機構は、病原菌自身にとって重要なGSHをRipAYによる分解から守る安全装置として発達したと考えられる。
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