研究課題
私たちは、モデル植物シロイヌナズナのゲノム上で隣接する異なる2つの抵抗性(R)遺伝子が、異なる4種の病原体の攻撃を認識して抵抗反応を起動するデュアル抵抗性(R)蛋白質システムを世界に先駆けて発見した。本課題では、異なる4種の病原体の非病原力遺伝子(Avrエフェクター)を用いて、「植物の病原体認識システム」と、「異なる4種の病原体の感染戦略」との複雑かつ多様な相互作用システムの分子基盤を明らかにすることを目的として研究を行った。(1) デュアルR蛋白質システムが認識するアブラナ科野菜類炭疽病菌Avrエフェクターの探索と同定共同研究により、複数の炭疽病菌(ウリ類炭疽病菌、アブラナ科炭疽病菌等)のゲノムを解読して、細胞膜を透過するためのシグナルペプチドをN末端に有する分泌蛋白質をコードする遺伝子(エフェクター)を推定し、アブラナ科炭疽病菌の約500種のエフェクター候補遺伝子のクローニングに成功した。これらを順次、デュアルR遺伝子を導入したベンサミアーナタバコに爪楊枝接種し、過敏感細胞死の誘導の検定により、Avrエフェクターの探索を試みた。本年度は、400種の遺伝子について爪楊枝接種が完了し、さらに数十種の遺伝子については、35Sプロモーターによる高発現バイナリーベクターに載せ替えて、ベンサミアーナタバコへの注入接種が終了した。その結果、過敏感細胞死を誘導する数個の遺伝子が発見できた。その中で、デュアルR蛋白質との相互作用により過敏感細胞死を誘導したと考えられる2遺伝子を得た。(2) デュアルR蛋白質による異なる4種の病原体認識機構の解明AvrRps4およびPopP2と、デュアルR蛋白質およびそのドメインをベンサミアーナタバコの葉で一過的に発現することで、過敏感細胞死等を指標にして各AvrエフェクターとデュアルR蛋白質の相互作用を解析した。その結果、AvrRps4存在下ではRPS4およびRRS1がミクロソーム画分から減ずることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
シロイヌナズナ由来のデュアルR遺伝子RPS4とRRS1を形質転換したコマツナおよびキュウリはそれぞれColletotrichum higginsianumまたはColletotrichum orbiculareに抵抗性を示した。このことから、両炭疽病菌に共通に存在するエフェクターのいずれかがAvrエフェクターである可能性が高い。そこで、ゲノム解析および両炭疽病菌のマイクロアレイ解析から分泌蛋白質遺伝子を予測し、既に約500種の分泌蛋白質遺伝子をクローニングした。これらについてベンサミアーナタバコを用いた爪楊枝接種法により、Avrエフェクターの探索を進めているが、これらの中に候補が含まれていない可能性も考えられる。糸状菌の分泌蛋白質は1000種以上存在することから、このままクローニングする遺伝子を増やしていくか、別の方法論をとるかの選択を迫られている。
現在までに取得できたデュアルR蛋白質との相互作用により過敏感細胞死を誘導したと考えられる2遺伝子について解析を進めていくとともに、別のアプローチからAvrエフェクターの探索を進める必要があると考えている。例えば、炭疽病菌にランダムに変異を導入して変異株ライブラリーを作製し、これをシロイヌナズナ抵抗性生態型に接種することで、感染能を有する変異炭疽病菌を取得して原因遺伝子を同定することによりAvrエフェクターを得るというものである。しかし、本法では膨大な量の変異体(数万個体)をスクリーニングする必要があり、効率的かつ画期的な方法論の構築が必要と考えている。
共同研究機関によるアブラナ科炭疽病菌のゲノム解析のアッセンブリの結果により、エフェクターをクローニングする予定を立てており、その進捗に併せて資金が来年度に繰り越された。
28年度には共同研究機関によるアブラナ科炭疽病菌のゲノム解析のアッセンブリが完了するため、エフェクターのクローニングに資金を使用する。
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Scientifc Reports
巻: 6 ページ: 18702
10.1038/srep18702
http://www.kibi.ne.jp/~narusaka/RIBS_PIant_immunity/toppupeji.html