研究課題
本研究課題では植物の酸化ストレス応答に関わる情報伝達系の解明を目指しているが、平成28年度は酸化ストレス応答の鍵となるシグナル化合物を受容体するタンパク質の探索を進めた。酸化ストレスシグナルとして申請者らが同定した2-ヘキセナールはモデル植物であるシロイヌナズナに処理をすると、30分後に代表的な酸化ストレス応答遺伝子であるZAT10の発現が最大となる。受容体タンパク質の候補として、動物において匂い物質などの揮発性低分子化合物の受容体として機能していることが知られているGタンパク質共役受容体(GPCR)を候補タンパク質とし、シロイヌナズナが持っている34 種類のGPCR様タンパク質を欠損した突然変異体を用いたスクリーニングを行なった。スクリーニングは2-ヘキセナール処理後、野生型シロイヌナズナに比べ、ZAT10の発現が半分以下に減少しているものを選抜することにした。その結果、cand1、cand6、cand7、cand8の4種類の突然変異株がスクリーニングされた。次に実際にそれらの突然変異体が欠損しているタンパク質が2-ヘキセナールを結合するかどうかを、昆虫細胞において組換えタンパク質と異種発現させたものを作出し、3Hで放射性標識した2-ヘキセナール(3H-2-ヘキセナール)を合成して、in vitroでの結合実験に供した。その結果、いずれのタンパク質も3H-2-ヘキセナールを結合することが分かったが、リガンドとしては機能しない3H-3-ヘキセナールを用いた実験結果から、cand1、cand6、cand8が2-ヘキセナール特異的な受容体として機能している可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
シロイヌナズナ突然変異体の入手から遺伝子欠損株を確認する過程、および2-ヘキセナール感受性が低下した変異体のスクリーニングに想定していたより時間を要したが、結果的に4系統のスクリーニングに成功し、さらに異種発現させた候補受容体タンパク質が放射能標識したリガンドを結合することを示すことができたので、おおむね順調に進展していると判断している。
in vitroの実験で受容体タンパク質として機能している可能性が示された候補タンパク質について、より受容体としての蓋然性を増すために以下のような実験を計画している。・候補受容体タンパク質とGタンパク質を融合させたキメラタンパク質を調製し、リガンド結合によりGタンパク質を活性化するかどうかを解析する。・候補受容体タンパク質がリガンドとする化合物の特定。シロイヌナズナが酸化ストレスシグナルとして利用できる化合物はC4~C9のα,β-不飽和カルボニル化合物であるので、候補受容体タンパク質がこれらの化合物も結合するかどうかを、3H-2-ヘキセナールとの競合実験により明らかにする。・候補受容体タンパク質が発現している部位をGFPとの融合タンパク質を植物で発現させ、蛍光顕微鏡化で観察することにより明らかにする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
Photosynthesis Research
巻: 131 ページ: 41-50
10.1007/s11120-016-0295-1
The Journal of Biological Chemistry
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