研究課題/領域番号 |
15K07326
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高木 正見 九州大学, 農学研究院, 学術特任教員 (20175425)
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研究分担者 |
中平 賢吾 九州大学, 農学研究院, 助教 (70596585)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アルファルファタコゾウムシ / ヨーロッパトビチビアメバチ / レンゲ / 蜜源植物 / 水田 / カラスノエンドウ |
研究実績の概要 |
2006年から継続調査を行っている福岡県久山町の2つの地区(久原地区と山田地区)で、引き続きアルファルファタコゾウムシ(以下、アルタコ)の密度とヨーロッパトビチビアメバチ(以下、Ba)の寄生率、さらにレンゲの被害程度の継続調査を行った。その結果、両種とも年1世代なので、すぐには効果が見られなかったが、2012年頃からBaの寄生率が40%を越え、アルタコ密度が平均10頭(10スイープあたり)前後に低下し、さらに2015年には、アルタコ密度は平均1頭前後に低下し、2016年も同レベルで経過した。また、レンゲに対するアルタコの被害は、ほとんど問題ない程度に減少し、レンゲの開花もアルタコ侵入以前に戻った。 しかし、水田のレンゲにおけるBaの寄生率は、2012年には50%近くまで上昇したが、その後20%前後に低下し、2016年には、山田地区ではついに0%になった。一方、周辺の雑草地に繁茂するカラスノエンドウでのBa寄生率は、非常に高く、久原地区90%、山田地区でも60%に達した。Baのマユはレンゲやカラスノエンドウが枯死した後は、地面に落ちて越夏する。従って、年1世代のBaにとって、夏は水没する水田という環境は致命的である。一方、雑草地のカラスノエンドウやヘアリーベッチなど水田以外では生存できるので、アルタコの食草を含む雑草地を確保するなど、Baの保護利用の重要が明らかになった。 次に、これまで未調査であった中国・四国地方におけるBaの分布を調査した。その結果、これまで確認されていた山口・岡山・兵庫県以外の広島・島根・鳥取・愛媛・香川の各県で、Baの分布を確認した。これら新たにBaの分布が確認された県の中には、Baの放飼記録がない県もあり、県境を超えてBaが分布を拡大する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年に少し上昇したアルタコ密度が2015年には再び減少し、過去最低の密度になり、2016年もこの密度レベルが維持された。この密度であれば、蜜源植物あるいは緑肥作物としてのレンゲの害虫防除としては十分なレベルであり、本研究の成果は、北部九州の養蜂家に、深く感謝されている。しかし、レンゲにおけるBa寄生率は減少傾向にある。水田(夏季には潅水されて水没する)というBaマユの越夏にとって不利な環境下で、その個体群をいかに維持し、利用していくかという点についての研究がまだ不十分である。レンゲの「遅蒔き(以前より遅い10月以降に播種)」効果に関する検討や、関西以北の都道府県におけるBaの分布調査も不十分である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き福岡県久山町においてアルタコとBaの個体群変動の調査を続ける。また、九州・中国地方以外の都道府県における Baの分布については、これまで網羅的な調査は行われてなかったので、まだBaの放飼が行われてない都道府県を中心に、関西以北の地域を対象とし、Baの分布拡大がどの程度進行しているか調査する。一方、水田というBaの個体群維持が困難なわが国の農耕地で、いかにBaの夏季個体群を保護するかという問題を解決する方法として、カラスノエンドウ等の雑草地の確保を検討する。また、これまでタコゾウ被害の回避のため行われていたレンゲの遅蒔き栽培だけでなく、一部の圃場で早捲きを行った場合に、どの程度Ba個体群維持に寄与できるかについての検証も試みる。さらに、するための景観生態学的研究等も試み、地域全体でのBaの保護利用戦略の構築を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度までは、野外調査が主に九州内であり、しかも。研究室の公用車を用いて調査地に行くことができたので、旅費等の支出が予想を下回った。2017年度は、関西地方以北の野外調査も予定しており、また、研究室の公用車を大学へ返納せざるを得なくなったので、レンタカーの賃料等もかさみ、調査旅費が当初の予算をかなり上回ることになるので、次年度使用額として計上された研究資金が十分活用できる。
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次年度使用額の使用計画 |
主に、野外調査の旅費および消耗品として使用する。
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