研究課題/領域番号 |
15K07327
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
深谷 緑 日本大学, 生物資源科学部, 研究員 (80456821)
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研究分担者 |
安居 拓恵 国立研究開発法人農業生物資源研究所, その他部局等, 研究員 (80414952)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多種感覚情報 / 視覚 / 振動 / 嗅覚 / カミキリムシ / 感覚生態学 / 性フェロモン |
研究実績の概要 |
昆虫における多種感覚情報の統合利用システムの解明を目的とし、視覚、振動、さらに化学感覚(嗅覚または接触化学感覚)を加えた3モードの感覚情報の統合的機能と構造を解析する。特に個体(反応者)が相手(信号発信者)に対し同種・性の認知/捕食者の認知を行う際の情報利用に着目して研究を行う。 初年度は移入種クビアカツヤカミキリ(クロジャコウカミキリ)を用いた実験を中心に進めた。本種は防御物質、性誘引物質、視覚要因の利用が予測され本課題に適する材料であるとともに、侵入地急増から緊急対策が望まれている。行動観察結果から本種は昼行性で雌雄ともよく飛翔することが判明した。簡易風洞を作製し、雌または雄を誘引源として飛翔行動を観察したが、離陸はするものの視覚的制約から飛翔はまれであり、誘引性の検証は難しかった。つぎに農業生物資源研の巨大風洞での実験を行った。風下に導入した放試成虫は雌雄とも無定位の飛翔を示したが、雄入り網籠を風上に設置したとき、雌のみで風上への定位飛翔が認められた。このことから本種の配偶飛翔定位において嗅覚信号(性フェロモン)発信者が雄であり、受容者が雌であることが示唆された。雌雄成虫それぞれの揮発性物質をGC‐MS分析したところ、両性共通の忌避物質と考えられる成分のほかに、雄特異的な成分が検出された。一方本種における視覚・振動情報の利用について検討するため、まず加振・非加振状態での視覚要因への反応を調べた。その結果、本種の触角反応はマツノマダラカミキリなどに比して視覚依存性が極めて高いこと、振動は回避行動に機能する可能性が示された。なおカミキリ亜科の他種でも感覚機能の評価を進めている。 一方視覚反応強化における振動の受容タイミングと効果の差異について、マツノマダラカミキリ、キボシカミキリ等を用いて検証実験を行い、両要因同時存在状態の開始時に機能することなどを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度実験に着手後、幾つかの候補材料の1つであった移入害虫Aromia bungiiが特に有望な材料であることが明らかになった。着手後明らかになった本種性質とは、防御物質の刺激性、活発な飛翔、優れた視覚、雌雄の相互求愛行動の活発さ、(防除に応用可能性が大きい)誘引性性フェロモンの存在可能性である。さらに侵入報告地が2015年から急増したことも挙げられる。本種はまだ累代飼育系が確立しておらず通年使用ができないことから、時期を逃さず計画期間内に成果を上げるためには誘引物質の機能・化学構造分析を前倒しにすることが有効と判断し、次年度以降に計画していたカミキリムシの飛翔定位・配偶行動における視覚の機能の再評価とフェロモン活性物質の存在証明、フェロモン成分の抽出・精製、構造決定準備にむけた作業を精力的に進めた。その結果、雄由来雌誘引物質の存在推定、飛翔定位行動解析、視覚機能評価など、想定を上回る興味深い成果を得、最終的に目指す応用方面への感触も得ている。 一方、初年度に予定した、触角反応・落下を誘導する情報要因の解析、嗅覚、視覚・振動の協力による攻撃行動の誘導メカニズムについても実験研究を進めたが、十分な結果を得るために次年度以降にも継続することとなった。 これらの進捗状況を総合すると『概ね順調』との評価が妥当と考える。
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今後の研究の推進方策 |
1)クビアカツヤカミキリについては伐採株から早期に発生した個体、つづいて野外採集個体を用い、性フェロモン候補成分の捕集・精製・解析を進める。各種機器分析の他、行動解析・GC-EAG(ガスクロマトグラフィ触角電位)など様々な方法で活性画分・成分候補画分を特定する。十分量の生成物が得られれば、NMRなど適切と考えられる機器分析を用いて構造推定を試みる。これと平行して、未交尾雄などを誘引源とした野外トラップ試験、行動観察などから、雄由来揮発物質、視覚要因の雌飛翔定位における利用メカニズムを証明する。機能解明・構造推定が可能であれば、この揮発成分を用いた環境低負荷型防除へむけた研究にも着手する。。 2)クビアカツヤカミキリほかの忌避性物質・防御物質を別途抽出採取、成分の分析を試み、さらに落下など回避行動、威嚇などの誘導に対する視覚要因との協力作用を調べる実験を行う。 3)配偶行動に介在するほか、触角反応・落下を誘導する、視覚・振動・嗅覚情報の特性解析を、カミキリ亜科、フトカミキリ亜科の複数種において進める。最終的には各行動カテゴリー行動での感覚情報への反応の種・環境による差異を種間比較法などから検討し、視覚・振動感覚・嗅覚などの情報依存性への環境・系統の影響、進化過程の推定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
供試虫候補の1つとしていた侵入害虫Aromia bunngiiが多種感覚情報利用に関する研究材料として、予想以上に重要かつ有望であることが判明した。本種などの発生状況から供試期間、個体数が次年度以降も限定される可能性が想定されたことから、28-9年度の計画の一部を前倒したうえ、現地調査・採集・化学分析、また比較のための材料も含めた行動解析に27年度計画以上の労力を投入した。この結果調査・採集・実験のための旅費、謝金が当初予定よりも増大した。一方、振動刺激については今年度は試験回数よりも精密性を重視し、森林総合研究所の精密解析機材を利用させていただいて、行動解析実験・解析を進めた。このため振動解析関連機材の購入の必要は本年度は生じず、微小振動可能性を考え機種選定を慎重に行うこととした。このような年度計画の順序と重点の軽重の若干の前後により、予算項目別に使用額の増減が生じ、結果として次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度は誘引物質の化学分析、野外調査・試験、また行動反応解析を予定している。野外調査(トラップ試験)場所として群馬・愛知、徳島などを検討中であるが、いずれも実施時に交通費(鉄道または航空運賃)またはレンタカー代金が必要となる。調査・作業には補助者が必要で有り若干の謝金を要するほか、トラップと試薬購入のための物品費が必要である。一方化学分析、行動反応解析は、主に各種機器・恒温室を備える中央農業研究センター及び森林総合研究所(つくば市)、あるいは東京大学(東京都文京区)で行う予定で有るが、追加資材の購入に物品費を要するほか、交通費が必要である。なお研究関係者との打合せにも交通費を要する。一方、行動反応の画像や振動データーの解析は、これまで既存のPC運用で行っていたが、能力的限界に達しているため、十分な機能をもつノートPCを購入する。また国際昆虫学会議(米国)出席のため旅費を計上する。
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