研究課題
本研究では昆虫の多種情報利用システム、特に視覚情報で誘導される反応が振動刺激で強化されるなどモード(入力感覚器)の異なる感覚情報間の協力作用を明らかにすることを目的とし、さらに多種の感覚情報を用いた環境負荷の小さい害虫防除法の開発を目指した。我々は材料の一つとした侵入害虫クビアカツヤカミキリAromia bunngiiについて雄が揮発性フェロモンを放出することを示し(Fukaya et al, 2017)さらに活性成分の構造を推定、候補成分合成品の雌雄誘引活性を野外実験で検証することによりフェロモン主成分を同定した(Xu et al, 2017)。つぎに2017年6-8月に徳島県及び群馬県で行った野外実験により、1)成虫食物由来の誘引物質の存在とそのフェロモン成分誘引性への著しい相乗効果 2)飛翔定位をもたらす嗅覚要因に対する視覚情報の協力作用を明らかにした。一方室内実験により 3)振動要因が接近物体の視覚認知を補完する事、また振動依存性を決定する条件を明らかにした。この他 5)ゴマダラカミキリの食性(草本性-木本性)の差異と嗅覚ー視覚情報依存性の関係、4)視覚要因と同時に作用する事によって接近者への反応を変化させるオオアオカミキリ由来揮発性の活性成分候補の構造推定、さらに 6)配偶定位要因が未解明であったRosalia batesiの雄由来のフェロモンの活性の野外検定ー同定への寄与などの結果も得た。これまでの結果から視覚-振動-化学感覚の統合利用システム、同種感覚で性質の異なる要因への依存性、情報利用と環境の関係が解明されつつあり、目下その成果をまとめている。また本研究は、侵入害虫クビアカツヤカミキリの種特異的な誘引捕殺を可能にしモニタリング、大量捕殺への道を開いたほか、難防除害虫の環境低負荷な防除法開発への寄与が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
本研究では1)視覚・嗅覚・振動感覚の統合利用による対接近者反応行動の切り替え、2)各モードの感覚への依存性を決める条件(オオアオカミキリほか複数種)、またとくに視覚依存性が高いクビアカツヤカミキリにおいて 3)フェロモン誘引物質の存在証明、フェロモン主成分の構造決定、4)このフェロモンへの化学的ー視覚的協力要因の解明、5)野外での誘引捕殺法の開発などの成果を得た。これらの結果は、入力感覚器の異なる感覚情報間の協力作用、とくに視覚・嗅覚・振動感覚の3モードの統合利用システムを明らかにすること、さらに環境負荷の小さい害虫防除法の開発を目指すという本研究の目標を達成し、当初想定を超えた一面もあると考えている。その一方で取得済みのデータ(振動など)の解析法を再考したことなどから、研究のまとめ・公表に予定より時間が掛かっている部分が存在する。以上を総合的に見て本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
昆虫の多種感覚利用システムに関しこれまで得た知見を踏まえ、さらに要因を絞り込んだ精密な実験設定による研究を進める。また本研究の知見を用い環境低負荷な害虫防除法の新規開発にも貢献したい。難防除性の侵入害虫クビアカツヤカミキリについては食物由来成分のうち誘引および誘引協力作用の主体となる成分の特定を試みる。さらにまた誘引に協力する要因として「超常刺激」となりうる視覚要因の条件を探索、より効果的なモニタリング、大量捕殺法開発、根絶への寄与を目指す。一方、嗅覚-視覚-振動の統合利用の際、条件によって同じ化学物質による信号としての情報の意味的切り替えが起きている事が示唆された種とその近縁種について、情報機能化学物質の解析、行動解析を行い、信号情報としてのフェロモン等の進化過程の解明を目指す。また研究から得た個々の結果の統合、種間比較などから「情報利用システム」の環境・系統依存性を明らかにしていく。
購入予定であった機材の一部が借用可能となったこと、論文投稿費が予定よりかからなかったことにより若干の次年度使用額が生じた。30年度は29年度に行った野外試験のうちサンプル量、時期の制約から明快な結果を得なかった設定、また共用分析機器(GC-MS)故障により分析が中途となった検体などについて若干の追加実験・分析を行い研究計画を完遂する予定である。また研究成果報告のために作成中の論文草稿に、既取得データーを用いた新たな解析結果を加え、報告の重要性、完成度を高め、波及効果の高い雑誌への投稿をめざす。
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