研究実績の概要 |
本研究では昆虫の多種情報利用システム, 特に視覚情報で誘導される反応が振動刺激で強化されるなどモード(入力感覚器)の異なる感覚情報間の協力作用の解明, さらに多種感覚情報を用いた環境低負荷型の害虫防除法の開発を目指した. 材料の一つであるクビアカツヤカミキリ(2018年特定外来生物指定)のオスが性・集合フェロモンを放出する事, その主成分が(E)-2-cis-6,7-epoxynonenalであることをすでに報告した(Fukaya et al, 2017; Xu et al, 2017). H29年度・30年度は 野外誘引試験により, フェロモン主成分合成品 (ラセミ混合物; 嗅覚要因①) に加え, 着地目標としてのトラップ色(視覚要因), 成虫の食餌由来の揮発成分(嗅覚要因②) が相乗的に作用し, 成虫の飛翔定位を制御することを明らかにしたほか, フェロモン主成分の光学異性体の活性を検証した. 次に, 接近する異性, 外敵などの認識をもたらす各種感覚情報の作用を調べた. 接近者モデルの提示で誘導される視覚依存的反応が, クビアカツヤカミキリでは振動に加え別の環境要因(未発表)によって変化すること, 近縁種では同種個体由来の揮発物質の有無で切り替わることが示唆された. なおゴマダラカミキリにおいて、複雑な組成を持つコンタクトフェロモンの多数成分の同定が完了, 合成品のみにより性フェロモン活性が再現され, 配偶定位から交尾に至る行動連鎖に介在する情報(視覚-嗅覚-接触化学感覚)の全容を解明できた. 他方, 草本を寄主としたゴマダラカミキリ成虫は同種の木本食個体とは各種情報への依存性が異なることを示す知見も得た. モードの異なる複数情報の統合利用と環境の関係など、今回明らかになった昆虫の情報利用システムの特性を基に, 難防除害虫の効果的な防除・発生予察法の開発を進めている.
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