研究実績の概要 |
カブリダニ類はハダニ類、アザミウマ類などの微小害虫の捕食性天敵として有望視されている。数種が生物農薬として市販されているが、近年は植生管理などを通じた土着個体群の保護利用も、注目されている。一方で、圃場におけるカブリダニ類の移動分散過程はこれまでに十分には明らかにされておらず、どのような範囲で、どのように植生管理を行えばカブリダニの保護増強が行えるかは経験則によるものであった。本申請課題では、マイクロサテライトマーカーを用いて管理方法・作物の異なる圃場でカブリダニ個体群構造を比較することによってカブリダニの移動分散様式を明らかにし、土着天敵の保護利用における定量的指針策定に資するものである。 本年度は、奈良県内の露地小ギク圃場におけるケナガカブリダニの個体群構造について、開発したマイクロサテライトマーカーを用いて解析を行った。4箇所の露地小ギク圃場周囲にインゲントラップ(國本ら, 2009)を設置、約10日間隔で回収して得られたカブリダニ類メス成虫から個体ごとにDNA抽出を行い、DNA塩基配列を用いた簡易種同定を実施した。その結果、回収されたカブリダニ類の7割以上がケナガカブリダニであり、次いでトウヨウカブリダニ、ニセラーゴカブリダニが得られた。ケナガカブリダニについてマイクロサテライト解析を行ったところ、圃場内の遺伝的多様性は比較的高いものの、圃場間も含めた空間的自己相関は得られず、明確な遺伝的構造は検出できなかった。さらに、調査期間中に遺伝的組成の入れ替わりが見られた。このことから、収穫や周辺除草など頻繁な撹乱が行われる草本性作物圃場においては、ケナガカブリダニの異動分散が促進されて、遺伝的な均質化が起こったものと考えられた。
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