研究課題/領域番号 |
15K07333
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
古川 純 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (40451687)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コンプトンカメラ / 複数核種同時イメージング / 元素動態 / セシウム |
研究実績の概要 |
平成27年度はGREI(Gamma-Ray Emission Imaging)装置の検出限界ならびに定量性を確認するために、複数濃度の放射性セシウム(Cs-137)を含有した模擬試料(面状)を作成し、その撮像から解析を開始した。さらに、模擬試料から得られる画像の面積を評価し、装置が有する視野についての基礎データを得るとともに、複数エネルギーのガンマ線を放出するEu-152の点線源を同一視野中に設置することで、ガンマ線のエネルギーに依存した核種選別による複数核種の同時イメージングを行った。また2つの線源を隣接させて撮像した画像から、どの程度の距離まで線源間の距離を近づけても判別が可能であるかについて、画像再構成処理で使用するパラメータの詳細な比較検討を実施した。 撮像データを基に、時間ごとに区切った画像の再構成、ならびにカメラと線源との距離情報を用いた3次元での画像再構成について試験したところ、特に3次元での画像再構成について奥行き方向にも対応した立体的な模擬試料の作成と再構成用パラメータの検討が必要であることが明らかになった。このため本年度はカメラから一定距離にある平面に限定し、その平面上における放射性同位元素の分布について解析を進めた。 植物を用いた複数核種同時イメージングとしては、模擬試料での試験から撮像が可能であることを確認したCs-137とFe-59をミヤコグサの根から同時に吸収させた場合のイメージング実験を行った。撮像終了後は組織別に分けてゲルマニウム半導体検出器を用いた両核種の含有量の定量を行い、イメージングにより得られた数値との整合性についてデータを得ることを試みた。Cs-137含量を基準とし、部位ごとにCs-137含量に対するFe-59含量を求め、各核種のデータから個別に挙動を解析した場合に比べ、試料間の個体差が減少するかどうかについて検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は計画初年度として、GREI装置による複数核種同時イメージングについて基礎的なデータを収集した。複数核種の撮像や点線源を移動させながらの撮像ではリアルタイムデータとして再構成画像を取得することが可能であることを明らかにした。概要に記したように平面上での放射性核種の分布像については順調にデータを蓄積することが可能であったが、3次元的な位置情報を含んだ画像の取得には至らなかったため、次年度の課題としてパラメータの検討を継続する。植物を用いたトレーサー動態の解析では、測定エリアをある平面に限定するケースが多いため、GREI装置による立体的なリアルタイムイメージングは大きなアドバンテージになる。 植物を用いた解析では複数核種によるイメージングを実施し、画像を得ている。個々の元素動態の解析は問題なく実施することが可能であるが、本申請で提案している、基準核種を設定し、その移動速度に対する対象核種の移動率を算出するという元素動態の標準化には更なる解析が必要である。 以上の状況から具体的に特定の遺伝子が欠損した植物個体などを用いた移動速度の解析については実際の測定にまでは至っていない。しかしながら測定に用いる予定の変異体は入手したものから種子の増殖と遺伝子型の解析を行っており、模擬試料による基礎データの収集が完了し、また元素動態の標準化手法が確立し次第、検証実験に用いることが可能な状態である。
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今後の研究の推進方策 |
GREI装置による撮像ならびに画像再構成処理を詳細に検証し、定量性の担保されたトレーサーの動態解析手法を確立する。奥行き方向にも対応した立体的な模擬試料での撮像を進めつつ、まずは特定平面上での放射性物質の挙動に関する解析を優先し、特に複数核種の移動速度を用いた標準化手法の開発に注力する。 解析手法の確立と並行して金属輸送関連遺伝子欠損株や植物ホルモン関連遺伝子欠損株を用いた金属の吸収・輸送・蓄積についての動態解析に着手する。特に金属輸送関連遺伝子欠損株や金属輸送に影響を及ぼすことが既知であるような環境下での動態解析について以下のように進める。 金属輸送に関わる既知輸送体のミヤコグサにおける欠損株(LORE1タグライン)を用いることで、ある輸送体が複数の金属元素の輸送にどれだけ寄与しているかを明らかにする。まずはFeの輸送に関与することが報告されている遺伝子や、NRAMP3やHMA4といった複数の元素に対する輸送活性が報告されている遺伝子の相同遺伝子を対象とする。またFeやZnといった必須栄養元素の欠乏条件で育成した植物体を用いて栄養充分条件の個体と元素動態がどのように異なるかを明らかにする。これらの測定の際には必須元素の輸送経路に乗って同時に輸送されるとされる非必須元素(Cdなど)についてもその挙動を同時計測し、植物の金属蓄積機構における特異性についての知見を得る。
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