研究課題/領域番号 |
15K07333
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
古川 純 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (40451687)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コンプトンカメラ / 元素動態 / ミヤコグサ / セシウム / 鉄 |
研究実績の概要 |
GREI(Gamma-Ray Emission Imaging)装置を用いたリアルタイムイメージングの取得については、撮像データを基に、時間ごとに区切った画像の再構成について多数の試験を実施した。また、任意に設定した平面上における複数の放射性同位元素の撮像と画像再構成について解析を進め、点線源の位置の違いによる放射線強度の差や画像化される線源の形状の補正について検討を行った。特に植物試料を対象とした撮像時に問題となる、核種ごとの放射線強度が大きく異なるような場合に、個々の核種の定量性を担保するための補正に使用するデータを蓄積した。 実際に植物体を用いた複数核種同時イメージングとしては、Cs-137、Fe-59、Zn-65をミヤコグサの根から吸収させた場合のイメージング実験を行い、部位ごとにCs-137の移動速度に対するFe-59およびZn-65の相対移動速度を求める手法の開発を進めた。 GREI装置を用いて検証を進めているミヤコグサの複数元素蓄積能の系統間差については、これまで用いていたゲノムデータベースの更新が行われたため、それに対応した着目遺伝子の再解析を実施し、選抜済みであった鉄吸収関連遺伝子のミヤコグサにおける相同遺伝子についても変更の必要がないことを確認した。また、着目している地上部および根における鉄含量の系統間差について、根端を対象とした鉄の局在解析から根表層および維管束周辺における鉄輸送の停滞が一因であることを示唆する結果が得られており、これらに関与する遺伝子群の発現解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は線源および植物体を対象とした複数核種同時イメージングについて時間を区切った画像の取得とその画像再構成について検証を進めた。カメラから一定距離にある平面上における複数の放射性同位元素の撮像から、点線源の位置の違いによる放射線強度や形状の補正が必要であったため、補正式の導入について検討した。3次元位置情報を含んだ画像の取得については、立体的な模擬試料を作成し、撮像と画像再構成を行った。植物を用いた解析では複数核種によるリアルタイムイメージングを順調に実施しているが、基準核種を設定し、その移動速度に対する対象核種の移動率を算出するという元素動態の標準化には、特定の部位において個々の核種の放射線強度が大きく異なるような場合に、放射線量の強い核種に起因するバックグラウンドの上昇を補正する手法の導入が必要であると考えられ、その対策について検討を進めている。 検証対象であるミヤコグサの複数元素蓄積機構については、ゲノムデータベースの大規模更新が行われたため、それに対応した候補遺伝子の再解析を実施し、これまでに着目していた鉄吸収関連遺伝子のミヤコグサにおける相同遺伝子についてそのまま継続して解析可能であると判断した。また、鉄輸送機構の系統間差に関連して、根における鉄の局在解析を行ったところ、地上部への鉄輸送能が劣る系統では根表層および維管束周辺に鉄の蓄積が認められたことから、これらの組織における鉄輸送を担うとされる遺伝子群の発現解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
GREI装置による撮像については多くのデータを蓄積したことから、今後は位置ならびに核種の違いに起因する放射線強度の差を補正した画像再構成手法の確立を目指す。これにより複数核種の移動速度を用いた標準化手法の開発を完了する。また3次元での動態解析についても、平面上に設置した線源を対象とした画像再構成で必要となった補正項目を組み込んだ画像処理法を確立する。 解析手法の確立と並行してミヤコグサにおける金属輸送関連遺伝子欠損株や植物ホルモン関連遺伝子欠損株を用いた金属の吸収・輸送・蓄積についての動態解析を進める。ゲノムデータベースの更新と共に、遺伝子欠損株(LORE1タグライン)の大幅な拡充が実施されたことから、改めて測定に用いる変異体の検索と種子の増殖、遺伝子型の確認を行い、GREI装置による動態解析から金属輸送活性への寄与を検証する。特に、必須栄養元素である鉄の欠乏あるいは過剰条件で育成した植物体を用いて通常栽培条件の個体と様々な元素の動態がどのように異なるかを明らかにする。ミヤコグサの鉄輸送における系統間差が単一の機能の差異によるものではなく、複数の機構が関与した結果であることが示唆されたため、これらの測定の際には必須元素の輸送経路に乗って同時に輸送されるとされる非必須元素についてもその挙動を同時計測し、根圏から根の細胞内へ吸収する、あるいは維管束を介して根から地上部へ輸送するといった個々の金属輸送過程における元素特異性についての知見を得る。
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