研究課題
植物はリン欠乏にさらされると、生体膜を構成するリン脂質の大半を分解し、生成されたリンを細胞内に供給すると同時に、脂質・脂肪酸は糖脂質合成の基質として利用し、生成された糖脂質を失われたリン脂質の代替として利用する”リン欠乏時の膜脂質転換”という機構を持っている。この機構は、実はリン欠乏だけでなく、窒素欠乏にも重要であることがわかってきた。昨年度までに行った生化学的解析により、ホスファチジン酸ホスホヒドロラーゼPAH1およびPAH2は、窒素欠乏時の光合成活性の維持に寄与していることがわかった。そこで、野生株、変異体、PAH1過剰発現体について、通常生育条件、窒素欠乏条件における葉緑体の光合成膜の構造を電子顕微鏡により比較観察したところ、窒素欠乏条件特異的に、変異体の光合成膜は崩壊しやすいこと、また過剰発現体では光合成膜の構造維持がみられることがわかった。具体的には、窒素欠乏時の変異体の光合成膜のグラナーラメラ構造の数は著しく減少していた。また変異体では、窒素欠乏時特異的に光合成活性やクロロフィル含量が野生株や過剰発現体と比較して低いこともわかった。以上のことから、PAHは細胞質に局在し、通常時の生育においては大きな役割は担っていないが、少なくとも窒素欠乏下の小胞体や葉緑体の膜のホメオスタシスに寄与しており、その欠損は窒素欠乏時の生育に致命的であることが明らかになった。本研究成果については論文にまとめ、2017年度秋にFrontiers in Plant Scienceに受理された。
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Frontiers in Plant Science
巻: 8 ページ: 1847
10.3389/fpls.2017.01847