本研究計画の目的は、1)エピジェネティック制御が植物のAlストレスにおいて存在するのかを検証すること、2)さらイネにも同様の発現制御系が存在し、Al耐性機構の誘導や耐性化に関連しているかを明らかにすることであった。 まず1)について、シロイヌナズナのCol-0株、Met1変異株、Suvh4変異株についてマクロアレイ法で解析した。その結果、Suvh4変異株では野生型株(Col-0)に比べて、Alストレスにより多くの遺伝子に発現変動が起きることを見出した。一方、Met1変異株ではこの様な大きな変動は見られなかった。さらにSuvh4遺伝子変異株と野生型株では、DNAのメチル化状況の変動に明らかな違いが見られる遺伝子が多数見つかった。これらより、この遺伝子がAlストレス下でのエピジェネティック発現制御に強く関わっていることを示唆した。 2)については、Alストレス下のイネ(日本晴)を用いて、マイクロアレイ解析を行ったが、ゲノム全体での遺伝子発現応答のダイナミックな変動パターンから、エピジェネティックな遺伝子発現応答の存在が示唆された。さらにこの解析結果から、Alストレス誘導性遺伝子群と抑制型遺伝子群の2グループを選抜し、各遺伝子(特にプロモーター領域に注目して)についてDNAメチル化状況の変動を解析した。今回もバイサルファイト処理後のDNA塩基配列を1塩基ずつ目視で解析した。その結果、Al誘導性、又はAl抑制性を示す遺伝子群の多くでDNAのメチル化状況に変動が見られた。 これらの研究成果全体から、シロイヌナズナの様な双子葉植物でもイネの様な単子葉植物でもAlストレス下ではエピジェネティック発現制御機構が存在することが示唆された。
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