研究課題/領域番号 |
15K07340
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
松本 健司 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 助教 (30398713)
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研究分担者 |
上野 大勢 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 准教授 (90581299)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シデロフォア / 鉄輸送 / 植物栄養代謝 / 還元 / アルカリ土壌 |
研究実績の概要 |
本研究は石灰質アルカリ土壌下における植物用鉄供給促進剤として、微生物の鉄輸送化合物(シデロフォア)をモデルとした各種人工シデロフォアを合成し、その機能評価を目的とする。平成27年度においては、新規導入した人工気象器内におけるミニトマトの水耕栽培における育成条件の検討を行い、それに基づいて人工シデロフォアTAGEと天然シデロフォアDFOBとの比較を行なった。まず、植物における鉄取り込みと関連のある植物根における鉄(III)イオンの還元活性を調べたところ、天然シデロフォアDFOB-Fe(III)錯体では還元が見られなかったのに対し、より還元されやすい人工シデロフォアTAGE-Fe(III)錯体では鉄(II)イオンへの還元および別のキレート配位子への鉄(II)イオン受け渡しが観測された。次に鉄欠乏させたミニトマトを用いて、人工シデロフォア錯体および天然シデロフォア錯体を投与した際の鉄欠乏回復効果について検討した。その結果、植物内鉄量と関連のあるクロロフィル量に関しては、人工、天然いずれにおいても回復が見られた。一方、植物内の地上部(葉および茎)と根の鉄含有量を直接測定したところ、人工シデロフォアTAGEの方が天然シデロフォアDFOBより多くの鉄を植物へ供給していることが明らかとなった。また、各錯体を与えた時の植物根における鉄輸送系遺伝子の発現度合いを調べたところ、人工シデロフォアの方が天然シデロフォアよりも遺伝子の発現が抑制されていた。以上の結果から、人工シデロフォアTAGEが天然シデロフォアDFOBより優れた植物用鉄供給剤として作用することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、新規導入した人工気象器内におけるミニトマトの水耕栽培における育成条件の検討および人工シデロフォアTAGEと天然シデロフォアDFOBとの比較検討と並行して、いくつかの人工シデロフォア合成を行なう予定であった。しかしながら、合成に用いる機器の故障があったことや、本研究目的を考えた時に人工気象器内での育成条件を確立しておく必要があったことから、前者を優先して実施した。その結果、これまで行なってきた屋外での育成との違いもあり、育成条件検討にはやや時間を要したものの、装置導入から半年後には人工気象器内での育成条件の確立に至った。また、それと並行して植物における鉄取り込みと関連のある植物根における鉄(III)イオンの還元活性を調べた結果、天然シデロフォアDFOB-Fe(III)錯体では還元が見られなかったのに対し、より還元されやすい人工シデロフォアTAGE-Fe(III)錯体では鉄(II)イオンへの還元が観測された。次に確立した育成条件下で鉄欠乏させたミニトマトを用いて、人工シデロフォア錯体および天然シデロフォア錯体を投与した際の鉄欠乏回復効果について検討したところ、クロロフィル量は人工、天然いずれにおいても回復が見られた。一方、植物内の地上部(葉および茎)と根の鉄含有量では、人工シデロフォアTAGEの方が天然シデロフォアDFOBより多くの鉄を植物へ供給していることが明らかとなった。さらに、各錯体を与えた時の植物根における鉄輸送系遺伝子の発現度合いを調べたところ、人工シデロフォアの方が天然シデロフォアよりも遺伝子の発現が抑制されていた。以上の結果から、人工シデロフォアTAGEが天然シデロフォアDFOBより優れた植物用鉄供給剤として作用することが明らかとなり、最終的な研究目的を目指す上で十分な結果がこれまでに得られているため。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた各種人工シデロフォアの合成とそれらの物性(還元活性や安定性)の評価を行ないつつ、それらを用いて鉄欠乏植物に対する鉄欠乏回復効果をクロロフィル量や含有鉄量、鉄輸送系遺伝子発現量などから評価する。
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