研究課題/領域番号 |
15K07341
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
礒井 俊行 名城大学, 農学部, 教授 (30211733)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 自然栽培 / 有効態リン / バイオマスリン / アーバスキュラー菌根菌 / 雑草 |
研究実績の概要 |
本研究は、自然栽培成立のための土壌から作物へのリン供給について、有効態リンおよびアーバスキュラー菌根菌(AMF)寄与の観点から明らかにすることを目的としている。施肥の有無、耕起の有無、除草の有無の組み合わせにより8通りの試験区を3反復設け、そのうち、無施肥・不耕起・無除草の試験区を自然栽培区とした。これらの試験区で夏作物(トウモロコシ、ダイズ)および冬作物(コムギ、キヌサヤエンドウ)を栽培した。 これまでの調査結果では、自然栽培区において有効態リン(トルオーグ法)が他の区と比較して高まる傾向は認められなかったが、バイオマスリン(クロロホルム燻蒸法)は比較的高い値を示し、総じて無除草区で高い値を示した。中でも施肥・不耕起・無除草の区では慣行区に比べて有意に高い値を示した。同様の傾向は人工気象器内で行ったモデル試験においても認められた。これらのことから、自然栽培における雑草の存在がバイオマスリン量を高め、これが作物へのリン供給を高めている可能性が示唆された。 作物へのAMF感染率は、総じて自然栽培区で高くなる傾向が認められた。AMFの存在量を分子生物学的に定量することを試みるため、リアルタイムPCR法に用いる包括的なAMF定量のためのプライマーセットをデザインした。また、作成したプライマーセットについて、AMF特異的であり、多くの圃場で優占するGlomeraceae科、Acaulosporaceae科、Gigasporaceae科を広く定量可能であることを確認した。このプライマーセットを用いて、試験圃場から採取した土壌および植物根中のAMFの定量を行い、さらに、定量の正確性を評価するため、人工気象器内で栽培したトウモロコシより根を採取し、AMF感染率測定との比較を行った。その結果、感染率が20%以上の場合、リアルタイムPCRによる定量結果と感染率との間に相関関係が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記のように研究計画通りの管理体系で試験圃場を維持し調査を行った結果、上述の成果を得ることができた。農家圃場においては、作付変更などにより計画していたサンプリングができなかったことから、当面試験圃場に集中した調査を行うこととした。 試験圃場におけるAMF感染率の調査は計画通りに実施したが、クローンライブラリー法によるフロラ解析については、当初使用を計画していたプライマーを変更し、新たなプライマーをデザインすることから始めため、測定は慣行区および自然栽培区のトウモロコシ栽培土壌およびトウコロコシ根を対象としたものだけになり、そのデータの詳細な解析とその他の作物については実施を次年度に繰り越した。 リアルタイムPCR法によるAMF密度の測定については、上述のようにAMFを包括的に測定する方法を確立することから始め、試験圃場の優占種と考えられるRhizophagus clarusの測定は、すでに作成している特異的プライマーの検証を含めて次年度に繰り越した。 試験圃場のAMF優占種の作物への影響を調査するための接種試験に供するためのAMF胞子の増殖については、これまで行ってきた方法と一般的に推奨されている方法をともに継続して用い、平成29年度に実施予定のポット接種試験に必要な量の確保を図っている。
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今後の研究の推進方策 |
試験圃場におけるリンの動態についてはバイオマスリンにとくに注目して調査を続ける。すなわち、無除草区におけるバイオマスリン量増大の再確認を行うとともに、季節の違いによる雑草量との関係などについて検討する。さらにバイオマスリンの全リン量中に占める割合や、有効態リン量との関わりについて検討を行う。 初年度に確立した分子生物学的手法による包括的なAMF密度測定を試験区ごとに実施する。さらに、当該試験圃場において優占していると考えられる2種のAMFについて、特異的プライマーを作成できているRhizophagus clarusにおいては、そのプライマーの検証を行い、平成28年度は慣行区および自然栽培区において密度測定を行う。この際、土壌中の胞子密度も合わせて測定し相関関係を明らかにする。Racocetra gregariaにおいては、特異的プライマーのデザインからはじめ、平成29年度にこれら2種の作物に及ぼす影響をポット試験で検証するとともに、圃場における存在量を各試験区において明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に残額が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費として使用する。
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