本研究は、自然栽培成立のための土壌から作物へのリン供給について、有効態リンおよびアーバスキュラー菌根菌(AMF)寄与の観点から明らかにすることを目的として実施した。施肥・耕起・除草の有無の組み合わせにより8通りの試験区を3反復設け、そのうち、無施肥・不耕起・無除草の試験区を自然栽培区とした。これらの試験区で夏作物(トウモロコシ、ダイズ)および冬作物(コムギ、キヌサヤエンドウ)を継続して栽培した。 土壌中の有効態リンは施肥および無除草によって有意に高まり、雑草の存在が有効態リンを高めることが明らかとなった。また、無除草区において微生物バイオマスリン(MBP)も高まる傾向が認められ、雑草を適切に管理することで作物生育への光競合を減少できれば、自然栽培区でMBPが作物生産に寄与する可能性が考えられた。 作物へのAMF感染率は、総じて自然栽培区で高くなる傾向が認められた。リアルタイムPCR法に用いる包括的なAMF定量のためのプライマーセットをデザインし、試験圃場から採取した土壌および植物根中のAMFの定量を行った。定量の正確性を評価するため、人工気象器内で栽培したトウモロコシより根を採取し、AMF感染率測定との比較を行った結果、感染率が20%以上の場合、リアルタイムPCRによる定量結果と感染率との間に相関関係が認められた。リアルタイムPCR法による植物根に含まれるAMFの定量結果は自然栽培区で高い傾向を示した。また、リアルタイムPCRにより増幅したすべてのDNA産物からクローンライブラリー法により相同性の高いAMF種が確認できた。その結果、Glomeraceae科とGigasporaceae科はトウモロコシ根およびダイズ根でともに複数確認されたが、Acaulosporaceae科は自然栽培区におけるトウモロコシ根でのみ確認された。
|