研究課題/領域番号 |
15K07344
|
研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
石井 伸昌 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 福島再生支援本部, 主幹研究員(定常) (50392212)
|
研究分担者 |
田上 恵子 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 福島再生支援本部, 上席研究員(定常) (10236375)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 放射性セシウム / 刈り株 / 経根吸収 / 水稲 / 福島第一原子力発電所事故 |
研究実績の概要 |
福島第一原子力発電所の事故以降、食物摂取による内部被ばくは国民の大きな関心事である。水田では収穫後の刈り株や根が翌年に持ち越されるため、これらが放射性セシウムを蓄積していた場合、翌年に栽培する水稲の汚染源になる可能性がある。しかしながら、これらの汚染源としての寄与についてはほとんど情報がない。本研究は、刈り株や根に残留する放射性セシウムの水稲への移行を定量的に評価することを目的とする。平成28年度は昨年度作成した放射性セシウムを含む水稲刈り株を土壌にすき込み、その土壌で新たに栽培した水稲への放射性セシウムの移行量について調査した。
昨年度準備した刈り株試料(Cs-137: 383 Bq/kg-dry)を市販の水稲用粒状培土にすき込み、2つの異なる温度条件で水稲(日本晴)を栽培した。培養開始時におけるこの土壌のCs-137濃度は15 Bq/kgであった。栽培は2016年5月9日に開始し、9月13日(高温条件)と9月20日(低温条件)に収穫した。
収穫した水稲は籾殻、玄米、そして茎葉部に分け乾燥し、得られた重量を収穫量とした。水稲粒状培土のみで栽培した水稲の玄米収穫量に対し、高温条件および低温条件下の玄米収穫量は、それぞれ35.5%および26.6%となった。減収の原因であるが、すき込みによる還元状態の発達による根の発達障害の可能性が示唆された。ゲルマニウム半導体検出器で収穫した玄米のCs-137濃度を測定した結果、高温条件および低温条件で栽培した水稲とも、定量下限値(高温条件:6.3 Bq/kg-乾燥、低温条件:4.6 Bq/kg-乾燥)以下であった。これらの値から、刈り株から玄米へのCs-137移行係数(玄米中のCs-137濃度/土壌中のCs-137濃度)は0.42以下であることが分かった。現在、籾殻と茎葉部のCs-137濃度を測定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は昨年度作成した放射性セシウムを含む水稲刈り株を土壌にすき込み、その土壌で新たに栽培した水稲への放射性セシウムの移行量について調査した。
予定していた実験は完了したが、水稲の生育が悪く、十分な収穫量が得られなかった。ゲルマニウム半導体検出器で玄米中のCs-137を1週間以上測定したが、定量下限値(乾燥重量当たり4.3 Bq/kgから6.3 Bq/kg)以下となり定量値が得られなかった。玄米のCs-137濃度が定量下限値である6.3 Bq/kg含まれていたと仮定すると、刈り株から玄米への移行係数(玄米中のCs-137濃度/土壌中のCs-137濃度)は0.42と算出される。原子力災害対策本部は「稲の作付けに関する考え方」において、水田土壌から玄米への放射性セシウムの移行の指標が0.1である報告している。本試験から得られた刈り株から玄米への移行係数は0.1よりも大きいため、Cs-137の玄米への移行に対する刈り株の寄与が土壌より大きいか小さいか判断ができない。すき込んだ刈り株の寄与を明らかにするためには、より定量下限値を下げる必要がある。
Cs-137の定量下限値を下げるためには、分析時間を延ばすこと、あるいは分析試料量を増やすことが考えられる。今回、測定は1週間以上行っているため、これ以上延長することは現実的でない。そこで、より健全な水稲を栽培し、収量を増やすことを考えた。まず、成長が抑制された原因を調査した。その結果、すき込みにより還元環境が発達し、根の活力が低下したために成長が抑制されたことが分かった。還元環境の発達を抑制するためには、水稲苗を植える前に、すき込んだ刈り株の腐熟を促進することが重要である。そこで、刈り株をすき込んだ土壌を約6ヶ月間に渡り湛水・乾燥を繰り返し、刈り株の腐熟を促した。現在、この土壌を用いて水稲の栽培を開始したところである。
|
今後の研究の推進方策 |
Cs-137で汚染された刈り株を水田土壌にすき込み、その土壌で水稲を栽培し、刈り株から水稲へのCs-137の移行量および水稲での分布を明らかにする。すき込んだ刈り株の分解速度は温度に影響されることから、異なる温度で水稲を栽培し、刈り株から水稲へのCs-137の移行に対する温度の影響を明らかにする。
これらの試験を成功させるためには、刈り株をすき込んだ土壌で、健全な水稲を栽培することが重要である。昨年度は刈り株をすき込んだ直後に苗を植えたため、刈り株の分解が進むにつれ還元環境が発達し、その結果、根の活力が低下し収穫量が減少した。対応策として、すき込んだ刈り株の腐熟を促すことを考えた。刈り株の腐熟促進のため、土壌の湛水と乾燥を繰り返し、十分腐熟が促進されたところで苗を植えることとした。現在、乾燥・湛水の繰り返しを約6ヶ月間行い、この土壌で水稲の栽培を開始したところである。
この腐熟対策が上手くいかなかった場合のことを考慮し、土壌を浅くし、より大気と接しやすい環境でも水稲栽培を行う。また、刈り株のすき込み量を減らす試みも行う。そのために、より高濃度に汚染した刈り株を作成する。この刈り株の作成のために、Cs-137を添加した水耕液で水稲を栽培する。得られた高濃度汚染刈り株を強還元が発達しない程度の量を土壌にすき込み水稲を栽培し、水稲によるCs-137吸収に対する刈り株の寄与について明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
学会発表のための旅費を予定していたが、予想以上に水稲の生育が悪く、その対策の為に時間を費やし学会発表を断念した。そのために余剰金が発生した。
|
次年度使用額の使用計画 |
消耗品の購入および論文執筆に係わる予算(英文校閲料および投稿料)に充てる。
|