研究課題/領域番号 |
15K07348
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉見 啓 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 助教 (60436102)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糸状菌 / 細胞壁 / ステルス新素材 / α-1,3-グルカン / オリゴ糖 / 転移酵素合成 / マウス試験 |
研究実績の概要 |
医療用ナノ粒子は、蛍光イメージング、MRI、中性子捕捉療法、磁気温熱療法、薬物送達系(DDS)としての利用が期待されている。MRIやCTでは固体ナノ粒子がイメージング試薬として利用できるが、静脈内に投与したナノ粒子が肝臓や脾臓などの細網内皮系(網内系)に捕捉され、標的組織へ送達できないことが課題となっている。これまでに申請者は、糸状菌の細胞壁多糖α-1,3-グルカン(AG)およびハイドロフォビン(HP)には免疫刺激性のβ-グルカン類を被覆する機能があることを見出している(ステルス機能)。本研究では、糸状菌由来の新規ステルス素材であるAGおよびHPを利用して、生体内で安定な金属酸化物ナノ粒子に糸状菌の細胞表層を模倣してステルス機能と水溶性を賦与した新規のステルスナノ粒子を創成することが目的である。本目的を達成するために行った平成28年度の研究内容は以下の通りである。 1.AGおよびHPの相互作用解析:分子間相互作用解析装置 QCM(Quartz Crystal Microbalance)を利用してAGとHPの相互作用を評価した。 2.AGおよびAGオリゴ糖の酵素合成:昨年度に引き続きAGおよびAGオリゴ糖を取得するため、麹菌の培養菌体から細胞壁成分を抽出し、亜臨界水処理によりAGオリゴ糖を精製した。また、継続的・安定的にAGオリゴ糖を得るためAGおよびAGオリゴ糖の糖転移酵素による酵素合成を開始した。 3.AGの免疫応答マウス試験:AGの免疫ステルス機能をマウス生体レベルで評価するため、AGが低減した麹菌を用いてマウスin vivo試験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、AGとHPの相互作用解析においては、QCMのセンサー金電極上にHPであるRolAタンパク質を吸着させ、センサー電極がRolAで被覆した状態でAGオリゴ糖を添加した。その結果、発振周波数に変化は認められず、RolAとAGオリゴ糖が直接相互作用する証拠は得られなかった。今回は比較的鎖長が短く(DP10以下)、低濃度のオリゴ糖を用いたため相互作用が微弱で検出限界以下であった可能性が考えられた。この結果からAGおよびAGオリゴ糖を大量に準備する必要があると判断し、AGおよびAGオリゴ糖の糖転移酵素合成を開始した。 AGの酵素合成には、Streptococcus mutans のグルコシルトランスフェラーゼ(GTF-I)を利用した。本酵素をコードする遺伝子を大腸菌で発現させ、スクロースを基質としてAGの生成条件を検討した。 その結果、基質量から換算して収量3-5%と良好なAG生成条件を見出すに至った。また、C13-NMR分析により、得られたAGは主に1,3結合から構成されるが、少量の1,6結合も含むことが明らかになった。現在、反応条件の最適化と基質濃度、pHなどの条件を変化させ、オリゴ糖生成条件を検討している。 AG低減麹菌を用いたマウスin vivo試験では、マウスに2週間、対照株およびAG低減麹菌株の粉末を腸管接種した際のNK、NKT、T、マクロファージの実数及び活性化細胞数を評価した。その結果、いずれにおいても、対照株群 < AG低減株群の傾向が認められ、AGのステルス性を実証する結果となった。以上のように、多少の計画変更はあるものの総合的には概ね順調に研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として以下の項目の研究を実施する。 1)AGおよびHPの相互作用評価:昨年度に引き続きQCMによりAGとHPの相互作用を評価する。また、糖転移酵素合成によるAGオリゴ糖生成条件を検討し、AGオリゴ糖を用いた糖濃度・オリゴ糖鎖長変化によるAGおよびHPの相互作用条件の検討も実施予定である。 2)AGおよびHPによるナノ粒子の被覆:既にHPで被覆した酸化鉄ナノ粒子は完成していることから、AG被覆酸化鉄ナノ粒子の開発に注力する。まず、酸化鉄ナノ粒子表面にアミノ基を導入する。これに還元末端のみを酸化してカルボキシイミド化したAGオリゴ糖をカルボキシイミドカップリングにより結合させる。また、糖転移酵素合成によるAGオリゴ糖生成条件が決定すれば、ナノ粒子表面上で糖の鎖長を進展させることも可能であると考えられる。これらの方法で作製したAG被覆ナノ粒子にAG-HPの相互作用性を利用してHPを結合すれば、糸状菌の細胞表層を模倣した表面構造を持つナノ粒子が完成する。さらに、既存のHP被覆ナノ粒子に糖転移を用いてAGオリゴ糖を進展させ細胞表層構造を反転させたナノ粒子の作製も試みる。 3)新規ステルスナノ粒子の機能性評価:ステルス素材(AGおよびHP)で被覆したナノ粒子の免疫応答性を、樹状細胞試験で評価する。また、被覆粒子でマクロファージを刺激し、マクロファージによる捕捉(貪食)回避能を評価する。さらに、マクロファージ貪食回避能を示した新規ステルス素材被覆ナノ粒子と、対象の非被覆ナノ粒子をマウス個体に投与し、肝臓・脾臓などの網内系由来細胞への取り込み率を比較する。血中の炎症応答マーカー・補体も評価する。 以上の解析により、免疫応答を回避するステルス粒子の表面構造が明らかとなり、実用化へ向けた新知見・課題が抽出できる。
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