研究課題/領域番号 |
15K07355
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
渡邉 剛志 新潟大学, 自然科学系, 教授 (10201203)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | キチナーゼ / キチン分解細菌 / CBP21 / 結晶性キチン / 高速原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究は、「自然界に圧倒的に多く存在するα-キチンの分解機構の解明」、「キチン分解促進蛋白質CBP21(AA10蛋白質・LPMO)の結晶性キチン分解利用における役割の検証」、「キチン分解細菌の生物機能におけるCBP21の重要性の解明と補助因子の探索」などによって、“より普遍的で進化した結晶性キチン分解機構モデルの提案”を目指している。 平成27年度に、α-キチン分解機構の解明の一環として、Phaeocystis 由来高結晶性α-キチン微小繊維を基質とし、原子間力顕微鏡を用いてSerratia marcescensのキチナーゼA(SmChiA)の分解挙動を観察するための条件検討を行った。その結果に基づいて平成28年度には原子間力顕微鏡による観察を開始し、不鮮明でかつ限られた分子数ではあるが、α-キチン微小繊維上を分解移動していたSmChiA分子が途中で折り返し、反対方向に移動するような様子を観察することができた。 また、細菌のキチン分解利用におけるCBP21の役割を検証するために、平成27年度にCBP21の欠損変異株を構築し、CBP21がキチン分解利用に非常に重要であることを明らかにした。平成28年度は、CBP21欠損の影響を異なる形状のキチンを用いて様々な角度から分析し、CBP21の欠損が微粉末化したキチンに比べて、フレーク状のキチンの分解利用を顕著に低下させることを明らかにした。このことから、CBP21はより天然に近い分解しにくいキチンの分解利用に特に重要な役割を果たしていることが強く示唆された。 また、SmChiAの結晶性キチン分解に必要な局所構造解明の一環として、分子表面に存在する4つの芳香族アミノ酸残基のうち、触媒クレフトに最も近い Tyr240と最も遠いTyr481に着目し、その変異体構築と変異の影響の解析を開始し、Tyr240の重要性を示す結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Phaeocystis 由来の高結晶性α-キチン微小繊維を用いたS. marcescensのキチナーゼによるα-キチン分解機構の解明の実験に関しては、もともと入手出来る高結晶性α-キチン微小繊維の量が微量であるため、高速原子間力顕微鏡による観察は困難が予想されていた。しかし、不鮮明ではあるが高結晶性α-キチン微小繊維上のSmChiAの分解挙動と、その特殊な動きを観察することができた。微量の試料を用いてこのような結果が得られた意義は大きい。 また、入手が容易でない高結晶性α-キチン微小繊維を用いての今後の実験に限界がある可能性も考えられることから、酵素側の結晶性キチン分解に必要な構造と機能の詳細な理解を進める必要があり、SmChiAの結晶性キチン分解に必要な局所構造として、分子表面及び触媒クレフト内部の芳香族アミノ酸残基の、プロセッシブ(連続的)なキチン分解における役割を解明する実験を開始し、すでに幾つかの重要な知見が得られている。 さらに、細菌のキチン分解利用におけるCBP21の役割を検証するための実験においては、S. marcescensのCBP21の欠損変異株の構築に成功し、この変異株を用いて、単純に一般論としてのキチン分解利用における重要性から一歩踏み込んで、天然に近いより分解しにくいキチンの分解利用に特に重要であることが示唆された点は、生態系におけるキチン分解細菌の役割とメカニズムの理解において特に重要で、今後の新たな展開が期待できる本研究ならではの成果として強調しておきたい。 以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
高結晶性α-キチン微小繊維を用いたS. marcescensのキチナーゼによるα-キチン分解機構の解明の実験に関しては、入手出来る高結晶性α-キチン微小繊維の量が微量であるにもかかわらず、これまでの実験で、不鮮明ながらSmChiAの特殊な動きを観察することができた。この実験に関しては、より鮮明でより多くのSmChiA分子の観察を可能にし、移動速度(分解速度)・移動距離等の詳しいデータの取得を試みる予定である。しかし、入手出来る基質量に問題があるため、それを補う意味でも以下の2つ方向の実験にもさらに注力する。 SmChiAの結晶性キチン分解に必要な局所構造とその機能を解明する実験においては、すでに分子表面の芳香族アミノ酸残基であるTyr240の特別な重要性を明らかにし、その特殊な役割についても議論を進めてきた。このアプローチを触媒クレフト内部の芳香族アミノ酸残基に広げ、プロセッシブなキチン分解において特に重要と考えられるTrp167の役割を解明する実験を開始し、分子表面と触媒クレフト内部の芳香族アミノ酸残基の結晶性キチン分解における役割と重要性を包括的に議論して行く。 また、細菌のキチン分解利用におけるCBP21の役割を検証するための実験においては、細菌のキチン分解利用におけるCBP21の重要性が明らかになるとともに、天然の状態に近いより分解しにくいキチンの分解においてCBP21が特に重要であることが示唆された。この点を突き詰めて、キチン分解細菌に共通する普遍的なAA10タンパク質の機能として提示できるよう、より詳細な解析を進めていく。さらに、S. marcescensの特殊な生物機能におけるキチン分解系とCBP21の役割の解明を目的として、キチン分解酵素系全体とCBP21単独の欠損変異株を用いて、昆虫病原性への影響をより完全な系で調査する実験を開始する予定である。
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