研究代表者は、放線菌二次代謝を誘導するブテノライド型シグナルを単離し、その二次代謝制御系を解明している。本研究では、1.シグナル制御系の人為的操作による休眠物質の生産覚醒化とその生合成系の解明、2.本制御系を有する放線菌種の同定とその二次代謝系の解明、を主たる目的とする。 初年度に、シグナル受容体様遺伝子の機能破壊により覚醒するフトキサゾリン生合成系について解析した。昨年度までに、フトキサゾリン生合成遺伝子を同定するため、ゲノム大規模欠失株のフトキサゾリン生産能を解析していた。本年度も継続したが、生合成遺伝子の同定に至らなかったため、全ゲノム再解析を実施した。その結果、想定外のゲノムDNA領域にフトキサゾリン生合成を担う遺伝子群を見出した。以上より、二次代謝シグナル系の改変が、当初期待もしないエバーメクチン生産菌のゲノム構造変遷を解明し、また新しいタイプのI型ポリケタイド合成酵素の発見に結びついた。 二つ目の目的において、シグナル活性を示す放線菌の推定シグナル生合成酵素を遺伝子破壊した場合、シグナル活性が低下し、代謝物プロファイルが変化する現象を昨年度までに見出していた。そこで、野生型株に存在し、生合成酵素破壊株では生産されない化合物を解析した結果、ブテノライド環を含む複数の物質を同定した。これらの二次代謝誘導活性を調べたところ、ブテノライド型シグナルの構造活性相関が明らかとなった。また、シグナル活性を示す放線菌をシグナル活性を失ったエバーメクチン生産菌と共培養させたところ、エバーメクチンの生産が回復したことから、ブテノライド型シグナルが放線菌の種間を超えて作用することが明らかとなり、放線菌間の二次代謝シグナルを介した化学コミュニケーションが実在することを示した。
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