LytF、LytE、CwlS、の3重欠損株は、富栄養培地では繊維状化できるが、最少培地では繊維状化しない。最少培地における形態を詳細に観察すると、単純に細胞が短くなるのではなく、細胞が螺旋状の形態をとり、一部の細胞では若干の螺旋状化がみられることが判明した。3重欠損株に細胞分化を抑制する変異を導入した場合には定常期に溶菌が観察される。その抑制変異は二成分制御系WalRKのセンサーであるWalKに変異(WalK-G238W)を有することは以前報告したが、この株では螺旋状の形態を示さず野生型に戻っていることがわかった。WalRKの活性をLacZアッセイにより解析すると、WalRKの活性が劇的に向上していることが判明した。つまり、最少培地でみられる螺旋状の形態は、WalRKにより活性化されるYocH等の細胞壁溶解酵素の過剰発現により抑制されると推察される。これは、螺旋状の形態が細胞壁溶解酵素の不足によりもたらされるという当初の考えと一致している。 一方、YocHの破壊を導入した場合は、最少培地において増殖阻害がおこるが、その抑制変異はWalRKの活性を制御すると考えられているWalIに変異がみられ(WalI-L271*)、最少培地においても螺旋状の形態を示しながらも繊維状化する表現型を示す。WalRKの活性をLacZアッセイにより解析すると、WalRK活性の向上は見られず、むしろ低下していた。4重欠損株で増殖阻害がみられたのは、LytF、LytE、CwlS、YocHが細胞の隔壁だけでなく、細胞壁の合成にも重要である可能性を示唆しており、抑制変異で細胞伸長がみられたのは、これらの欠損が最少培地における主要な繊維状化因子であることを示している。しかし、WalI-L271*が如何にして増殖阻害を抑制したかは不明であり、繊維状化をコントロールするためには、その機能解明が今後の課題である。
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