研究課題/領域番号 |
15K07360
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
戒能 智宏 島根大学, 生物資源科学部, 准教授 (90541706)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コエンザイムQ / ユビキノン / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
コエンザイムQ10(CoQ10、ユビキノン10)は、ミトコンドリアにおける電子伝達機能の他に、脂溶性抗酸化物質としての新たな機能が注目されている物質である。分裂酵母は、ヒトと同じCoQ10を合成し、CoQ合成酵素遺伝子破壊株の生育にはシステイン(Cys)やグルタチオンなどの抗酸化物質の添加が必要であることや、CoQがsulfide-quinone oxidoreductase(Hmt2)を介してsulfideの酸化代謝に関与していることが示唆されている。そこで、本年度は分裂酵母CoQ合成不能株の遺伝子発現をマイクロアレイを用いて調べることにより、CoQ欠損が遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。また、細胞内のCoQの酸化還元状態を調べるために、電気化学検出器を用いたCoQ測定法の検討を行った。分裂酵母CoQ合成不能株の遺伝子発現をマイクロアレイを用いて調べたところ、電子伝達系の遺伝子の発現に減少が見られたほか、イオンや硫黄を含む分子種に関連するトランスポーターの遺伝子に発現の増加が見られた。これらの結果は、CoQが欠損することで電子伝達系のみならず、細胞内のイオンや硫黄を含む分子種の代謝にCoQが関与していることを示唆しており、興味深い成果が得られたと考えている。また、CoQは275nmに吸収極大を持つため、その分析にはHPLCに接続したUV検出器を用いて検出を行っている。電気化学検出器は、UV検出器に比べて感度が高く、還元型CoQの検出も可能である。本年度は、電気化学検出器をHPLCに接続し、測定条件の検討を行うことで酸化型と還元型のCoQ10を検出することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コエンザイムQ10(CoQ10、ユビキノン10)は、生体内で合成される脂溶性の抗酸化物質である。これまで、分裂酵母のCoQ欠損による表現型はシステイン(Cys)やグルタチオンなどの抗酸化物質の添加によって部分的に相補されるため、CoQの欠損によって低下した抗酸化能力がCysやグルタチオンの添加によって回復していると考えられてきた。しかしながら、CoQ 欠損によって細胞内でどのような変化が起きているかを調べられたことはなく、詳細は不明であった。本研究では、マイクロアレイを用いて分裂酵母のCoQ欠損株の遺伝子発現を調べることにより、遺伝子レベルでどのような変化が起きていることをまず調べることにした。本研究により、CoQの欠損によって電子伝達系の遺伝子が減少していることが判明し、さらに多数のイオンや硫黄関連物質のトランスポーターの遺伝子発現が増加していることを新たに見出した。また、細胞内で合成されているCoQの分析にはHPLCのUV検出器を用いて解析を行っているが、より高感度に解析できる電気化学検出器を用いた分析法を取り入れるため、検出方法の条件を検討し、酸化型と還元型のCoQ10を検出することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で、分裂酵母のCoQ欠損によって影響を受ける遺伝子の情報を取得することが出来たため、次年度は影響を受けた代謝系の解析を行っていく予定である。CoQは、sulfide-quinone oxidoreductase(Hmt2)を介してsulfideの酸化代謝に関与していることが示唆されているため、システインを始めとする含硫黄化合物の代謝系を中心に影響のある物質や関連する未同定遺伝子の解明を目指す。また、CoQは抗酸化に関与している物質であるため細胞内の活性酸素種(ROS)の量の測定を行い、CoQ合成不能や関連する遺伝子の欠損株によってROS量がどのように変化しているかの研究を進める。さらに、電気化学検出器を使用して細胞内の還元型CoQ量を測定するために、分裂酵母からの還元型CoQの抽出方法の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた高額なキット類にかかる費用を低く抑えたことと、プラスチック器具などの消耗品費が予定より少なくて済んだため残金が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した研究費については、次年度に必要な試薬やプラスチック器具等の消耗品に充当する予定である。
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