研究課題/領域番号 |
15K07362
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
後藤 正利 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90274521)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Aspergillus kawachii / RNA-seq解析 / 有機酸発酵 |
研究実績の概要 |
本研究では、焼酎製造に用いられる白麹菌 Aspergillus kawachii を特徴づけている性質の一つであるクエン酸の高生産機構の解明を目指すとともに、有用有機酸であるイタコン酸を高生産する白麹菌の育種を試みた。 白麹菌 Aspergillus kawachiiと黄麹菌 A. oryzae から抽出したTotal RNAを試料として、MiSeqを用いたRNA-seq解析に供した。白麹菌と黄麹菌の7,737のオルソログ遺伝子間の転写量を統計的に比較した。その結果、優位に2倍以上の発現変動のあった遺伝子を2,684遺伝子同定した。これらの発現変動遺伝子についてGene Ontology(GO)解析を行った。その結果、Biological Processのサブカテゴリにおいては、43のGO termが優位に濃縮された。例えば、統計検定で上位10位以内にランキングされたGO Termにおいて、carbohydrate metabolic processには107遺伝子、cellular amino acid metabolic processには74遺伝子、ion transportには44遺伝子、organic acid metabolic processには88遺伝子という多数の発現変動遺伝子が含まれていた。 これまでに白麹菌A. kawachii のクエン酸高生産に関係する遺伝子候補として、36の候補を選抜した。従来までに取得ができなかったこれらの遺伝子破壊株について、すべての破壊予定株を取得した。破壊株の代謝物量について野生株と比較して、クエン酸の高生産性に影響を与える遺伝子を同定した。その結果、クエン酸とリンゴ酸の生産量比率に影響を与えた遺伝子破壊株やクエン酸やリンゴ酸の生産性に影響を及ぼす遺伝子破壊株を見出した。 新たにイタコン酸を生産能を獲得した白麹菌の育種を試みた。cis-アコニット酸からのイタコン酸への合成反応を触媒するcad をコードすると推定される cad遺伝子を導入したA. kawachii株でイタコン酸生産量を調べた。様々な液体培養条件において検討を行ったが、イタコン酸の生産は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RNA-seq解析による白麹菌 Aspergillus kawachiiと黄麹菌 A. oryzae 間での発現を異にする遺伝子の同定による白麹菌のクエン酸高生産要因の解明については、発現を異にする2384もの遺伝子が見出され、両菌間での遺伝子置換候補の絞り込みが困難となっている。 白麹菌破壊株による代謝物測定では、培養データが均一ではなく再現性のあるデータ取得に時間を要したが、クエン酸生産に影響を及ぼす遺伝子を同定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
RNA-seq解析によるクエン酸生産性の異なる異種間でのクエン酸高生産に影響を及ぼす遺伝子の同定を目指した実験では、発現変動だけでなく、オルソログ間の相同性や個々の遺伝子の発現量を考慮にいれた追加解析を検討する。また、DNAマイクロアレイにより同定された白麹菌の特徴に関与すると推定している遺伝子と関連した考察を行い、遺伝子置換候補の絞り込みを行う。 白麹菌遺伝子破壊株を用いた実験では、クエン酸高生産に影響を及ぼす遺伝子を見出したので、その遺伝子産物機能の解明と遺伝子発現強化による有機酸生産への影響を明らかにする。 イタコン酸を新たに生産する白麹菌の育種については、cad遺伝子の発現及びCad活性の有無、cis-アコニット酸からイソクエン酸への代謝の抑制などの可能性のある問題点を解消していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
九州大学に所属していた研究代表者が、2016年4月1日をもって佐賀大学へ移動したため、研究活動に必要な試薬等の購入ができず次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
科研費研究の遂行に必要な実験機器と試薬類も佐賀大学に移管したので、次年度使用額を用いて不足分の試薬と実験機器の移動に伴い部品交換が必要な機器の部品購入に使用する。
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