研究課題
発酵産業において初期段階では酸素濃度が一定濃度あるがその後酸素濃度は低下し発酵微生物は極端な低酸素条件にさらされる。近年、メタボローム解析を使って発酵微生物の、特にアルコール発酵を行う酵母の代謝産物を調べる研究が盛んにおこなわれているが、上記の事情により酸素呼吸に係るミトコンドリアが酵母の代謝にどのような影響を及ぼすかはこれまで充分に解明されてこなかった。ミトコンドリア状態が酵母の代謝、メタボロームに及ぼす影響を明らかにすれば、香味物質の代謝調節が容易になるだけでなく、有用物質、機能性物質の生産性の向上も図れるし、さらにこらまでに蓄積されてきた酵母のメタボローム解析結果の再解釈も可能になる。そこでまず、ミトコンドリア活性が酵母のメタボロームに及ぼす影響を調べるため、発酵条件を変えることでミトコンドリア活性が変わった実用酵母株を用意した(呼吸型、発酵型、中間型)。これらの3つの状態の実用酵母株(清酒酵母)を使ってメタボロームを調べた。代謝産物を説明変数、呼吸状態を目的変数としたPLS回帰を行い、R2値0.9以上Q2値0.8以上、RSME0.060の値で代謝産物濃度から呼吸状態を予測することができた。グルタミン酸、バリン、イソロイシンなどが高いVIPスコアを持つ物質として同定された。これらの研究により、代謝産物濃度からミトコンドリア活性を推測することができるようになり、ミトコンドリア活性が酵母メタボロームに及ぼす影響を明らかにすることができた。この研究成果によって、これまで酵母で取得されていたメタボローム解析結果について、その状態に応じて得られたメタボローム解析結果のずれを補正するとまでは行かなくても、少なくとも酵母の呼吸発酵状態を考慮に入れながらメタボローム解析結果を再解釈できるようになったと言える。
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