研究実績の概要 |
SigX遺伝子のグルコース誘導(GI)が起きなくなるようなトランスポゾン変異株を検索した。ECFシグマ因子のGIはsigXのみでなくsigMにも観察されたので、得られた変異のうちさらにsigMの誘導も阻害する変異こそが、GI現象の本質に関わる遺伝子の破壊であると予想された。言い換えればsigX発現のみを特異的に低下させる遺伝子の破壊とsigXのGIそのものに関わる遺伝子の破壊を区別することが重要で、sigMにも作用を有する遺伝子破壊が後者であると考えられる。その結果、cshA, ptsH, tsaD, ylxR, yqfOの5種類の候補遺伝子を得た。そのうち、RNAヘリカーゼでありRNAポリメラーゼに会合するCshAタンパクのアセチル化がsigXのGIに重要であることはすでに前年度に判明していた。PtsHはグルコースの細胞内輸送に必要であるためsigXのGIを阻害していると考えられた。YlxRとYqfOはそれぞれ細菌での保存性が極めて高いのだがその機能は未だ明らかでない。TsaDは細菌での保存性が極めて高く多くの種類では生存に必須な遺伝子である。枯草菌でも当初は破壊不可能とされてきたが、破壊の方法が異なるためトランスポゾンによる変異導入が可能だったと思われる。TsaDはTsaE, TsaBと複合体をなし、ANNコドンを解読するtRNAのアンチコドンループの37位アデニンにthreonylcarbamoyl基を転移させる。ylxR, yqfO, tsaDを含む転写単位の発現を調べると、前2者がCshA依存性GIを受けていた。すなわち、cshA, tsaD, ylxR, yqfOの間には何らかの連関が存在する可能性があること、アセチル化CshAがRNAポリメラーゼに会合しポリメラーゼのSigXへの親和性を高める現象の背後にtsaD, ylxR, yqfOが働くことが示唆された。
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