研究実績の概要 |
sigXとsigM遺伝子のグルコース誘導(GI)が起きなくなるようなトランスポゾン挿入変異株を検索し,cshA, tsaD, ylxR, yqfOへの挿入変異株を得た。このうち、cshAはRNAヘリカーゼであり、かつRNAポリメラーゼに会合することが知られていた。本研究でCshAタンパクのアセチル化がsigXのGIに重要であることはすでに論文として報告した(Ogura and Asai, 2016)。これら遺伝子の間には何らかの連関が存在しうると考え、種々の試行錯誤を行なった結果、CshAがylxRを含むオペロンの転写を正に制御していること、YlxRはDNAに結合してtsaDを含むオペロンの転写を正に制御していることが判明した。また、YlxRは単なる転写因子というよりも、染色体会合性の非特異的DNA結合性タンパク質であり、そのため400近くの遺伝子を制御していることが判明した。
tsaD遺伝子産物はtRNAのアンチコドンループの37位のアデニンを修飾する酵素であることがすでに知られている。つまり、tsaDはtRNA修飾を通じて何らかのタンパク質の翻訳プロセスを制御し、その結果、SigXとsigM遺伝子のグルコース誘導に重要な何らかの過程に関与していると予想される。大腸菌でtsaDがピルビン酸脱水素酵素複合体のアセンブリーに関わるという報告があり、この酵素はピルビン酸からアセチルCoAを生成する。すなわち、一つの可能性として枯草菌でもtsaDはこの酵素の翻訳や複合体形成に関係し、細胞内のアセチルCoA生産を通じて、CshAのアセチル化を制御しているという仮説を現在たてており、その証明が今後の課題である。
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