Microbacterium sp. HM58-2株は、非天然化合物であるヒドラジド化合物を唯一の炭素源として生育可能な細菌として土壌中から単離された。この非天然化合物の認識機構、代謝機構を明らかにすることで、細菌の環境適応能力の解明と、ヒドラジド化合物の分解などといった応用にも繋がることが期待される。 昨年度までに、全ゲノム解析を行い、ヒドラジドの取り込みと分解をになうオペロン構造の解明、オペロンの遺伝子発現制御を行っている転写因子の立体構造解析、ヒドラジド化合物の分解酵素であるヒドラジダーゼの立体構造を明らかにしてきた。特にヒドラジダーゼの構造では、触媒活性を失った変異体と基質であるヒドラジド化合物との複合体を得ること、その結果を元に作成した変異体の活性測定から、基質となりうる化合物の構造についての知見を得ることができた。そこで、ヒドラジド化合物、あるいはその分解物が転写を誘導する機構を解明するため、転写因子の基質との複合体結晶構造解析を行った。その結果、基質結合の有無により転写因子に大きなコンフォメーション変化が誘導されていた。また、基質結合の有無による量体数の変化もゲル濾過測定により観測された。これらにより、DNAとの結合、あるいは基本転写因子などとの相互作用に変化が起きることが予想された。次に、ヒドラジド化合物の代謝では、オペロン中のABCトランスポーターによる基質の取り込みが必須である。トランスポーターの各サブユニットのアミノ酸配列のBlast検索ではオリゴペプチドトランスポーターとアノテーションされるが、基質認識に関わるアミノ酸残基は不明であった。そこで、取り込みの基質認識に関わるトランスポーターの基質結合サブユニットの結晶構造解析をめざし、常法により結晶を得ることに成功した。
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