研究課題/領域番号 |
15K07370
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
上田 賢志 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (00277401)
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研究分担者 |
高野 英晃 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (50385994)
西山 辰也 日本大学, 生物資源科学部, 助手 (10759541)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Streptomyces / エネルギー代謝 / 遺伝制御 / 恒常性 / 二次代謝 / 形態分化 |
研究実績の概要 |
平成27年度の成果により、Streptomyces属放線菌が保有するATP合成酵素複合体をコードするatpオペロンの転写が、レドックス感知性転写調節蛋白質Rexによって制御されている可能性が示唆された。大腸菌で発現精製したStreptomyces coelicolor A3(2)由来のRex蛋白質の組み換え体を用いたゲルシフトアッセイによって、実際にそれがatpオペロンのプロモーター領域に結合することを再確認するとともに、その結合がNADHの添加によって顕著に阻害されること、その阻害がNAD+の存在によって解除されることを明らかにした。このことから、Streptomyces属放線菌ではその細胞内におけるNADH/NAD+バランスを感知するRex蛋白質の機能を介してatpオペロンの転写が調節され、ATP合成酵素複合体の発現レベルを変動させることでエネルギー代謝の恒常性が維持されていると推測された。 上記の結果から、当初観察された末端呼吸酵素複合体Coxのノックアウトによるatpオペロンの転写上昇は、呼吸活性の低下に伴うNADHレベルの低下によってRexによる転写抑制が解除されたために引き起こされていると考えられた。そこで、Coxの破壊と同様の効果を及ぼすことで形態分化と二次代謝の開始に影響する変異を同定する目的で、一連のbld変異株について細胞内ATPレベルならびにatpオペロンの転写レベルを調査したところ、bldJおよびbldN変異株においてCox破壊株とほぼ同等の亢進が認められることを見いだした。このことから、bldJ(変異点未同定)とbldN(RNAポリメラーゼσ因子をコード)は、気中菌糸形成の開始に至る一連の信号伝達の中でも上流に位置し、おそらく細胞内のエネルギーレベルに影響することで分化の開始に阻害的に作用しているものと推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Rexがatpオペロンの転写調節に対して果たす役割を明確にできた点で、意義の大きい成果を挙げることに成功していると考えている。一方で、一連の証明がin vitroの実験にとどまっており、in vivoでのRexの役割に関する検証が遅れている。また、bld破壊株を対象とした検証で、現在までに役割が明確になっていないbldJおよびbldNの制御的位置づけに新たな情報が得られた点も、次につながる意義深い成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果から、細胞内ATP濃度ないし関連のエネルギー分子のレベルが分化と二次代謝の開始に対する信号として機能している可能性が考えられるが、そこに直接関与する制御遺伝子の同定には至っていない。次年度はその同定を目的とした検証を進める。本年度の成果によって、bldJとbldNがエネルギー代謝に影響することで形態分化能を失っている可能性が示唆された。逆に、それらより下流に位置すると考えられているbldDをはじめとする変異株では細胞内ATPレベルの上昇は認められなかったことから、それらの中に問題の調節系が含まれていることが考えられる。また、平行して行っている検証によって新たに見いだされた銅イオン濃度によって転写量が変動する一次代謝酵素遺伝子群についても、その発現調節と環境依存的なエネルギー代謝と分化開始の連携における役割に着目した遺伝生化学的検証を推進し、環境に依存したエネルギー代謝と分化の制御的連携に関する知見を集積する。
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